ミケ

俺は標的を入れたかごを両腕に抱えながら、女性から渡されたメモを頼りに足早に道を歩き、目的地と思われる一軒家を前にしている。


― ピンポーン ―


― ガチャッ ―


「お、君か。ご苦労だった、少年。ついでにここに持って行ってくれ。」

と女性は、A4サイズの1枚の紙を手渡してきた。


「あ、はい。」

と俺はその紙を受け取り確認する。

その紙はカラーで印刷されていて、『猫を探しています』の文字が一番上に記載されている。

紙の一番下に、地図のイラスト付きの住所と連絡先が記載されている。

「その紙の下のところに届けに行ってくれ。」

「分かりました。」


行ってきますと、

言いかけた時に、紙の中央部分に目をやると、

そこには、白色を基調に黄土色、茶色の三色の色をした猫のカラーでの写真が乗せられていた。


「ん?あの、すみません。」


「なんだい。住所分からないのか。全く。」


「あ、いや、住所は多分大丈夫なのですが、猫の写真が全く違うんですが。」


「え?」


「あ、はい。」


「黒いやつじゃないの?」


「いや、この紙には白色の猫が。」


「ちょっと見せて。」


「どうぞ。」


「んー。ちょっと違うな。」


「そ、そうですね。」

俺は、『ちょっとどころじゃないだろ』と喉まで出掛かったが何とか堪えた。


「おかしいな。昨日の夜の帰りに電柱に張られてたときは、真っ黒だと思ったんだけどな。」


「そうだったんですね。あの、この黒猫はどうしたら。。。」


「んー。元の居た場所に戻しといて。」


「いや、今からですか?」


「まあそうだな。」


「さすがに今からは。帰りと真逆なので。」


「そうか。じゃあ、とりあえずそこに置いといて。」


「は、はぁ。」


「ごめんな、お前も巻き込まれた側だったんだな。」

と言い残し、俺は事務所を後にした。


その2日後、何となく様子が気になり、俺は学校帰りに事務所に寄ることにした。


「こんばんはー。」


「おう、君か。」

ドアを開けたすぐ先に、この前の女性が座っていた。


「あ、あのこの前の猫は。。。」


「ん、ああ。ここだよ、ここ。」

女性は、机に隠れて見えていないが、自分の膝元辺りを左手で指差している。

俺は、首を傾げながら、女性の指さす方に足を運ぶ。

女性のすぐ傍まで来て、机の下側に目をやると、そこには女性の膝の上で丸くなっている黒猫がいた。


「今、寝たばっかりだから静かにな。」

と、女性は黒猫の身体を優しく撫でている。


― ンニャッ ―

女性に撫でられると、黒猫は丸くなっていた身体を足先までピーンと伸ばした。


「おお、ごめんよ、ミケ。」


「ミケ?」


「ん、このこの名前だよ。」


「ええ、名前つけたんですか。にしても、ミケって。」


「まだ小さいし、ここで一緒に暮らすことにしたんだよ。名前は、まあノリだ。」


「はあ。」


「まあ、またいつでも顔出しに来な。」


あの粉がマタタビというものだと、後になって教えてもらった。


「いや、先に教えろよ。用途も含めて。」

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かたちあるもの oira @oira0718

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