第43話 The Native Ficade
「今日はサクラダ・ファミリアとピカソ展、グエル公園に行きましょう。
チケットは用意しておいたから。」
「ありがとう。」
彼女は着替え終えたらしい。僕も着替えてロビーへ向かう。時計は七時半を指している。バレンシアオレンジをそのまま潰して作られたオレンジジュースは朝に持ってこいだった。三十分で食事を済ませると荷物を預けたまま最低限の身軽な格好でホテルを後にした。僕はSIMカードの購入をしておく。姉は今頃どうしているだろう?彼女はリナと行方をくらませたが、今はどこにいるのだろう?この一件は何処かおかしい。ここらで僕は姉についての見解を改めた方が良いのかもしれない。樫江千歌、26歳。いや、もう27か。高校生の時に両親を亡くし、高校を卒業した後は推薦で大学の経営学部へ進んだ。そこで四年学んだ後、就職先では一年も勤めず退職。仕事先や大学の人を通してアパレル業、レディースオンリーの古着屋を家から直ぐそこで開く。彼女がセレクトして来た服が並んでいる。売買も行っている。年に数回買い付けをしにヨーロッパへフライトする。男女の交際は不明。そして両親の死についても僕より実情を知っている。彼女は異母兄弟かもしれない。組織の情報を知っていて加担している可能性が高い。・・・ざっとこんな感じだ。今頃何食わぬ顔して古着や小物、アンティークの買い付けをしているかもしれない。そして、雨野原紫乃華。女学院の3年。今回の予想外の騒動は「かもしれない」が多すぎた。知り合ったばかりの紫乃華は仕方ないにしても。只総じて言うなら雨野原という名字にはこの程度の暴露話では終わらない謎が潜んでいる気がした。そういう点で言えば、今の僕は当然姉も彼女も信用出来ない。誰かは何かを隠している。グエル公園まではバスで向かう。郊外の丘を上がったので随分と景色が良い。それで午前は潰れた。昼食を取るとまたバスで街へと戻った。サクラダ・ファミリア聖堂は最寄り駅から地下鉄を利用すると三駅で行けた。スペインの地下鉄は集団で行く場合一枚のチケットを交互に利用する。車内ではスリが横行している。ホテルに荷物を預けておいて正解だった。楽器を演奏しているおじさんもいる。車内でだ。乗客は観光客以外は隣にいる人でも無関心を装っている。現にそれ程珍しいことでもないのだろう。スペインはイギリスと違い路上でのパフォーマンスに制限がない。だから地下鉄のホームに行く途中でもギターを弾いている人がいたりする。一括りで言うなら大道芸だが、そのクオリティはまちまちだ。二駅分程演奏をしたおじさんは目ざとく観光客である僕らの方に寄って来た。
「この国は働かない人が多いのが特徴なの。」
多分その通りなのだろう。僕らはノーマネーとだけ言ったが、相手は社交的な顔をして僕らを見つめた。誰も車内で演奏することを求めていない。
でも世の中にはそういう車両も存在する。そういう男がじっと金を求めて立っているような車両も。電車は僕らに小さな試練を課した後、サクラダ・ファミリア駅に到着した。今思えばあのオルガン奏者も良い暇潰しだ。
地下鉄から地上に出るとそれは目の前にあった。思ったより完成されている。スカイツリーみたいに完成途中の写真は価値が出るのかもしれない。スペインの偉人と言えば観光の際代表的なのは二人くらいだろう。それはピカソと目の前の大聖堂の作成者、ガウディである。世界文化遺産として1984年に登録されたけど無茶苦茶な設計だ。恐らくガウディ自身も実物になるとは思っていなかっただろう。十時からの予約者列にターゲットと距離を空けて並ぶ。ここでは予約チケットの提示を求められるだけでなく、空港と同じく持物検査として荷物を置き、ゲートを通らなければならなかった。随分と厳重な警備だ。監視の体躯の良い男性職員は僕がゲートを潜るとこう言った。
「Can you speak English? 」
「Yes」そう言うと男は満足そうに頷いた。
「Ok. I think you have a little knife. 」
それは控えめな言い方だった。何故なら確かにスキャンは確かに僕の万能ナイフを確認していたからだ。僕はその通りだと言った。僕が10歳の誕生日に、父がそれを手渡した。そしてその年に彼は死んだ。それ以来それは父からの最後の贈り物であり、実用的で、雄弁なお守りだった。そこにはある種の確かなメッセージさえ感じられた。でも彼はそれについては何も言わなかった。そして僕は余分な教訓よりも100のメッセージと説得力を持っているように見える、その万能ナイフを見つめた。それはある面では遺品よりも価値があった。彼は僕にこれは預かっておくと言った。観光後またここに寄るように。そしてナンバーカードを渡した。
聖堂の中は広々とした空間だった。壁と言う壁には辺り一面にステンドグラスが埋め込まれている。外の過度とも言いたくなる様な装飾性からは程遠いシンプルさだ。だが間違いなく内側の、ステンドグラスの巧妙な作りによって人々はここを好きになるのだろう、と思わない訳にはいかなかった。多くの人がそれに見とれていた。そして時間毎に入場を区切っているのにも関わらず観光客が多かった。
「あそこのエレベーターで上に上がりましょう。
横のコインロッカーに荷物を預けて。
当然塔へのチケットは持ってるわよね?
じゃあ、行きましょう。」
「確か塔には二種類あったはずじゃなかったか?」
「その通り。
こっちは生誕のファザードよ。
向こうの受難のファザードよりも生前ガウディが建てたという所為もあって人が多い。
それに名前も良い感じがしない?」
まあね。
「こっちの方はバルコニーに出られるのが特徴的よね。」
エレベーターも人混みだが僕らは気にしないで話を続けた。ここに日本語が分かる人間がいる訳でもない。どうやら僕らは最上階についた様だった。見晴らしは最高だ。
「こっちの方が景色の良さは抜群ね。」
「これらのリナが春に家に来てから持ち上がり始めたことの中心には、当然リナがいるのだろうとばかり思っていた」そう言うと彼女は僕の方を見た。
「きっと彼女が何かについて助けが必要なんだろう。
そしてそれは事実でもある。
だからこそ分かるのに時間が必要だった。
全てに同じ重低音があるみたいな…上手く言えないけどとても似てるところがある。
その何度も何度も出てくるテンポのひとつが君だ。
姉さんは何かの補助をしていても、主導してるふうには思えない。」
そう言ってその言葉の感触を僕は再確認する。そう、彼女はそういうタイプじゃない、それはしっくりこない。
「今回について言えるのは、実際に話を前に進めていくのは僕らでもあるってことだ。」
「上手にソロを奏でるんだ」誰かがそう言う。
「私なんて些細な役割よ」しばらくして彼女も答えてくれる。
「別に自分を卑下するつもりなんてない。
何故ならこの件は私は関わっていても核としてじゃない。
確かに彼女をどうにか出来るのは貴方だけでしょう。
でも今回に限って言えば私はただの案内役に過ぎない。
私は上手に踊ることしか出来ない。
降りましょうか。」
僕らは螺旋階段の方へと向かった。それはいきなりのことで若干反応が遅れてしまった。そしてその時間は彼女が僕を潜り抜け人混みに紛れてしまうには充分な時間だった。分かることはそんなになかった。僕は黙ってゆっくりと螺旋階段を降りていった。僕はため息をついた。そしてこの時間は彼女が身を挺して作ってくれた時間なのだということをうろんな頭に叩き込ませた。一秒だって無駄には出来ない。門を出ると私物預かり所まで向かい、ナンバーカードとその碧色のリトル・ナイフと交換する。
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