「流血と暴力?」

私は思わず破顔した。でも確かに、それは一昔前というよりは、つい最近まであった。

「失礼。

ですが今はもう少し洗練されています。

と言っても美しいとは言いませんが。

それに複雑さはある種の綺麗さを損ないます。

自分が誰だったか分からなくなるという経験が私にはありませんが、そのお陰で敵と見方の区別が付かなくなる、ということならあります。

それに弾丸は食らわないが、腰に持病を持とうとしている。

私の仕事はエージェント、という響きが持つ二種類の意味の両方とさえ言えるでしょう。

好むと好まざると関わらずそうなのです。」

「でもアンタにも分かっていないことがある。

そういうのは映画や昔のことだったと切り捨てられないことだ。

そういうのは繰り返すんだよ。」

可能性か、と私は思った。きっとここに来る確率は極めて低い部類に位置していることだろう。でも今回の問題に限って言えばそれは五分五分どころではなかった。おそらくfifty・fifty・fiftyと言ったところだろう。彼はそれに対して私はモラルの洗濯屋みたいなものだと言った。どれくらいそれは正しいだろう?でも間違いなくその存在は「偉大なる原則に対する例外」であるはずだ。何が彼をそこまでかき乱しているのだろう?何が場にあるのが原因で、私はここにこんな面持ちで立っているのだろう?知りたいことは多すぎたが、それらは全て手を伸ばすと警戒するみたいにするりと離れていった。

「そこは匿名性がはびこる世界だった。

人々はその匿名性を利用して何をすることも出来た。

それは仮面舞踏会みたいなものでもあったし、機関とも呼ばれもした。

各々が声とトークだけを信頼してキスしあうこともあったし、自身の抱える不満や欲望を吐露しもした。

もちろんかなり重要な情報のやり取りだってあった。

私はそんな機関にいた。

そしてそんなところで情報を集めていた。

そこでは仮面をつけた人間しかいない。

仮面はある時にはその人を強く守る。

しかしある時にはその人の持つ悪しき部分を強く反映しもする。」

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