第29話 納期

「なあ、少しいいかな。」

そう自分が切り出したのは、文化祭もいよいよい二週間前となった準備期間のことだった。僕は自分の班、つまり執筆組のほうにいた。班員は一拍置いて僕に目をやった。それはどうやら発言を許可するという合図らしかった。

「お世辞にも、順調じゃないのは皆知ってのとおりだ。」

そう、二週間前になっても現行、もとい話のフィナーレは決まっていなかった。皆の頑張りに反比例して、と言ってしまってもいいかもしれない。

「問題点は結末のオチが決まらないことじゃない、この調子で作業していたら発表はヒースロー空港になる。」

誰かがクスリと笑った。でもそれは気の利いたジョークだけではなかった。

「もちろんオチであれ、仕掛けであれ、トリックであれ、カラクリであれ、そういうのは必要だと思う。

でもまず第一に、僕らは皆推理作家でもなければ、作家でもない。

そのことを忘れていないかな。」

「というと?」

「僕らはどうしようもなくハンデを背負っているとも言える点がある。

それは若さだ。」

「ウェーーイ!」

「僕らは何かになれるような、肩書きのある年齢でもないし、それに相応するものでもない。

ここで例年皆が勘違いしている。

文化祭は確かにプロ級のクオリティで一番を狙う人も多い。

でもストーリーでそれはまず無理だろう。

文化祭のメリットはどちらかと言えば逆のところにミソがあると思うんだ。」

「逆?」

「つまりプロ級の作品を作らなくてもいいってことだ。」

「もちろん説明がいるとは思う。

でも考えてみてくれ。

高校生が作っているのにこんなに人々の視線を集められるなんて凄いと思わないか?

僕らはなんなら集客や宣伝の必要はない。

もう一定数は集まっているんだ。

僕らは現在進行系でアイデアを出し合っているけど、段々とお互いがお互いを潰し始めてる。もちろんこれは仕方のないことだ。

物語が佳境に入れば入るほど、選択肢は縮まるしその選択は困難を極めていくものだから。」

一置きし僕は続ける。

「でもそれでユニークなアイデアを潰している。

考えてみてくれ、今クラスを見渡すだけでいい。

ここには今どこかの班の馬鹿が造ったキャディのフリートウッド・コンバーチブルがその魅力をいかんに発揮しながら重々しく鎮座している。

そうじゃないか?」

「キャディーと来たか。」

「さすがキャシーは言うことが違う。」

笑い声。

「セットだってそうだ。

クラス一つしかない代わりに、僕らはその舞台をもう十分なほど仕上げてもらってる。

キャラクターについても決まってるし、犯罪内容、つまりトリックのみそだってコンセプトはある。

それはその時代にしか出来なかった、という一点だけだ。」

「筋は作られるのではなく育っていく。

僕の好きな推理作家の言葉だ。

この劇には十分な魅力が既にある。

後は観客がその時代性のあるからくりに気付いたとしても、最後まで見たいと思わせられればいいんだ。

無理に突飛なことをする必要はないし、頭の良い観客を唸らせることを目的にする必要はないんじゃないか?」

「大事なのは裏をかくことじゃないと?」

「大事なのは、その事件、犯罪によって何が起こるかだ。

その原因よりも、人々がそれについてどう対処するか、役者の一挙一投足が大事なんだよ。

でも今回のやり方でここまではできない。

まずあるものを使わないか?」

「つまりキャディのことかい、旦那?」

「ああ。

なんと言ってもあれは映える。

それに車っていうのはもちろん、移動手段だ。

つまり物語に動きが出せる。」

「ビバリーヒルズ?」

「1920年台のね。

やり方を変えるんだ。

足りない頭を集めても良いアイデアは出ない。

どちらかというと皆が何を好み、どんな場面を見たいのかを知りたいんだ。

例えるなら僕らの造るべきは料亭の鍋みたいな一流のものじゃない。

だって一流じゃないんだから。

僕らは絶対に美味しくないはずなのに盛り上がってしまう闇鍋で客を集めるんだ。

でもそれはB級映画を作ろうっていうんじゃない。

今からリアルなサメをこしらえるわけにもいかないからね。

ただアイデアは奇抜に、ストーリーは誰でも分かるけど納得してもらえるようなものにしたい。だから今決まっているところから終わりまでのプロットをそれぞれ造ってきて欲しい。

何を増やしてくれても構わない。

画、出だしや登場人物、舞台や時代の風俗、小道具は決まっている。

君たちには自分の好きなオチや順番、工夫をしてほしい。

それが嫌なら三段論法でどのシーンや何が嫌かまとめてくてくれ。

推理モノが書けないなら恋愛モノにしてもいい。

もともと殺人が起これば全てそれは推理モノになる。

つまり推理ものはただの闇鍋の容れものにすぎない。

まず一人にしか書けない原稿が欲しい。

面白いのから入れていこう。

二十四時間の内、四時間だけ犠牲にしてくれ。

別にアイデアなんて浮かばなくても良い。

でも必ず原稿の前に座って、それ以外は何もしないでくれ。

それからまた話し合おうのはどうだろう。」

結論から言うなら、それは功を奏した。

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