第18話 Preliminary Investigation


 午前中、私達の班は十一時藤沢駅前発のシャトルバスで辻堂に出来たカフェに来ていた。そこで買った飲み物を飲んでいる間はそこの書店の本を全て無料で読むことが出来るからだ。修学旅行の計画を練るには打ってつけの場所だろう。場所はイギリス。そう、彼女の故郷だ。それで色々と複雑な気分になる。何が楽しくて一大決心で飛び出た母国に帰らなければならないのか。この代は記念すべき五十期の生徒で、校長が提案したらしい。でも面白いことにこの高校、北英という名前の癖に全然外国語に力を入れていないみたいだ。多分新校舎の設立が出来なくなって余った予算をどうにか有効的に処分したかったんだろうと、陵史は話していた。なかなか味わい深い意見だ。もしくは校長が海外旅行したかっただけとか、入学パンフレットに自由で国際的な校風とか入れたかったからかもしれない。とにかくそれは今までに類を見ない画期的な提案だったみたいだけど、樫江君は全然知らなかったらしい。急な変更であり、学校側も安全面と旅費の考慮がしっかり裏付け出来るまで時間を要していた。確かに私達はまだ班を作っただけだった。私に樫江君、光晴君、莉乃さん、千紘さん、秋音さんだ。特に問題はなさそうだ。だから別にこの学校に姉妹校があったとか、その関係で私が来たというわけじゃない。もしそうなら随分と分かりやすい状況だとは思うけど。でもこうして振り返ってみると不思議な巡り合わせだ。そして新しく旅行の資料が配られた。日数は変わらず三泊四日。イギリス国内であればちゃんと企画を組めば何処へでも行っていいということだった。凄く自由だ。九月一日までに詳細を作って担任に提出してオーケーを貰わなくてはいけない。しかし私達はまだ行く場所を決めただけだった。最新版の旅行雑誌や本、ガイドブックを皆で読み進めていく。「ロンドンの歩き方」「コッツウォルズドライブ」「ガールズイギリス旅行」等々。ページに書いてある有益な情報は各自で撮ったりメモしたりしておく。樫江君はそのガイドブックに一通り目を通していた。最後の方に入用なものの一覧がチェックリストと共に載っていた。そして巻末には

「このご時勢、お金があれば大抵の物事はどうとでもなります。

何も貴方は文明の発達していない所に行く訳ではないのです。

そこには貴方の見知ったものもちゃんとあります。

なんなら銀行のカードを片手に手ぶらで行っても問題ありません」と書いていた。随分と励まされる言葉だ。少なくとも当日何かを忘れた時には曼荼羅のようにこれを思い出し、心を落ち着かせることが出来るに違いない。それらのガイドを読むのが疲れたり、誰かが面白い記事を見つけた時にはそれぞれが皆に話を振ったりした。

「ポンドにどう両替すればいいんだ?」

「1ポンドって150円もするの?」

「高いな。」

「トイレって必ず駅にある訳じゃないんだ。」

「小銭が必要なんだって。」

「それにお金が掛かるみたいだし。」

「スリとかロンドンでも起こるらしいな。イヤホン等をして歩くとそれ専門のスリに狙われますって…物騒だなあ。」

「チューブの値段のゾーン設定、イマイチ分かんないな。」

「オイスターカードは作っときましょう、うん。」

「オイスター?

牡蠣でも食べるのか?」

「イギリスで使えるICカードよ。

チューブという地下鉄の他に、ダブルデッカーで有名なバス、電車からフェリーまで、様々な交通機関に乗れるの。

そして普通に乗るのと違って割引もされる。」

「じゃあ作っておかないと。」

「ダブルデッカー?」

「ロンドンバスよ、二階建てのやつ!

どんなに乗っても£4、6より高くならないらしいし!

是非乗りましょう!」

「コッツウォルズはどう観光しようか。」

「どう見ても一番手っ取り早いのは車だよな~。

タクシーでいいんじゃない?」

「というか調べれば調べるほどタクシー以外の交通手段がバスしかない。」

「スマホは海外パケットだと通信悪い所がありそうだし羽田空港でWi-Fiを借りて集団で使った方が良さげだな。」

「不安な人は向こうの空港のコンビニでSIMカードを買うといいかもね、今私もそうしているし。」

「基本英会話の文章、中学の英語のテキストみたいじゃない?」

「ほんとだ~。」

「入国審査とか学校単位で行うなら読み飛ばして良いよな?」

「皆クレカ作る?」

「まあ僕はバイトの関係で持っているけど、必要じゃないか?」

「ユキちゃん先生作っておくようにって言っていたよね。」

「免税手続きもそっちの方が楽って書いてあるし。」

「日本大使館って把握したほうがいいやつ?」

「出来るならね。」

等々。話はそれぞれが観光誌をめくる度に出てくる。このメンバーはなんだかんだ言って居心地が良い。そんなこんなで時刻はあっという間にお昼になった。同じお店の中で昼食を取てから僕らは店を後にした。

「まあ、私達にはミアさんもいるし、余裕よゆ~。」

「迷子にならなければな。」

私は相変わらず例の小説を読んでいた。今回の文化祭の出しものの脱出ゲームは推理モノなので参考になるのだ。それからカフェを出て私達が向かった先は海だった。


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