第5話:幼馴染と放課後デートに来た(1)

 普段通り六限までの長い長い授業を受け、やっとやってきた放課後。


 今朝の会話通り、朔は明那とショッピングモールに訪れていた。


 学校から少しの距離はあるものの、その品揃えの充実さから朔も度々お世話になっている場所である。


「ショッピングモールに来たわけだけど、これから何するの?」


 徒歩での移動がやや堪えたのか、明那が背伸びしながら聞いてくる。


「うーん、買い物……?」

「なんで疑わしげに語尾を上げるの?」

「いや何となくだよ。何となく……」


 左隣からジトっとした目線が刺してくる。


「ふぅん。ま、いっか」


 面白くないとでも言いたげに明那が視線を外して、朔はほっと一息落とした。


「ね、ゲーセンあるよ」


 エスカレーターの乗り換え中、明那に上腕をつつかれ振り返る。


「ほんとだ」


 少し前に見た時と変わらず、ゲームセンターの正面には太鼓型のリズムゲームが悠然と立ち構えていた。


 その広々とした体躯と仁王の如き立ち振る舞いは、ゲームコーナーの門番の様相を醸し出している。


 ただこの筐体、置かれている位置が悪いのだ。


 堂々とゲームコーナーの入り口に設置されているせいで、プレイしていると知らずのうちにオーディエンスが集まってしまう。


 その恥ずかしさが朔のプレイ回数を一度に留まらせている大きな原因だった。


「中学生の時は二人でたま〜に行ってたね。朔はもう行かないの?」

「行ってないかも。ぬいぐるみもネットで買う方が安いし」

「うわぁ……面白くない……もう一生ゲーセンに入らないでほしい」

「それは酷くない?」

「UFOキャッチャーを否定するやつの方が酷い」

「ぐ……」


 明那の言葉に何も言えなくなっていると、目的のフロアに到着した。


「到着です!この階です!」

「……?何その喋り方。『です』のところにアクセント置く感じがまんま中学の時の校長じゃん」

「子は親に似るってやつ……?」

「いつ校長があんたの親になったんだ」


 やれやれといった調子で明那が息を落とした。


「で、何するの?そろそろ教えてくれてもいいでしょ」

「今日は───を選んでほしくて……」

「え?聞こえない」

「だから女性服を選んで欲しくて!」

「え、なんで」


 一瞬、時が止まる。


 朔だって分かっている。自分が何を言い出したかくらい。


 真っ赤に紅潮した頬と耳がその証拠だった。


「ああ、なるほどね。そういう趣味の人もいるよね」


 明那は何度か頷くと、一歩ずつ後ずさっていく。


「誤解だから!」

「ちょっと拒否反応起こしちゃったけど許して。朔の趣味を否定する気はないからさ」

「ちょっと拒否反応の距離じゃないよね!?」

「もっと寛容にならなきゃダメだね。今の時代。朔のおかげで改めて理解できたよ。ありがと」

「悟りを開いて感謝されても困るって!」


 朔にはもはやどうすれば良いか分からなくて、ただただ手を戦慄かせた。


 明那に頼ったのが間違いだったのだろうか。


 でも、いつもはなんだかんだ言って手伝ってくれるし、きっと今回だって───。


「あははっ!朔慌てすぎじゃない?冗談って言葉知ってる?」

「え?」

「何その呆けた顔!さっきは全部冗談に決まってるでしょ」


 腹を抱えて笑う明那に朔は口を尖らせた。目いっぱい不服の意を示してやった。


「俺からしたら真面目に話してるのに揶揄からかわれて冗談じゃない」

「む、上手く返された感じがムカつく」


 言って、明那が頬を膨らませる。


「ま、安心してよ。あたしが朔を否定することはないから。何があってもね」

「そっか」


 大胆な物言いに思わず口篭る。


 が、相手は明那だ。きっと深い意味は無い。


「───でも、他の女の子のために一肌脱ぐのはモヤって来るかな……」


 何やら明那が呟いたように見えたが、内容は聞こえない。


「さ、服買いに行くよ。朔」

「ちょっ、ちょっと待って」


 何を言ったのかを問う暇もなく明那が歩き出してしまった。


 どうせ大したことでもない。さほど気に留めことなく、朔も後を追った。

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