第27話



 ……あ~っと、えぇ~肝心なことをお話するのを、忘れていたような気がするのです。しかもそれは断章2ですら触れていなくて……。まぁ、言ってしまえば、あれです。このお話自体はあまり思い出したくないというのが本音なんですが。でも言わなければ、折角このお話を読んでくださっている方々を混乱させてしまいますので。


 ――確かに最初の断章で、数年お話が飛ぶ時があると書きました。が、23話と24話の合間、四年の空白が存在しています。にも関わらず、彼女との出会いの年齢が三十一歳時点となっていますよね。平成十二年での私の年齢は三十歳だったというのに……。そうです、彼女との出会いは23話の翌年なのです。つまり交際期間は三年程度なのですが、ここを説明するのが少しややこしくて、端折ってしまいました。


 理由は簡単です。


 平成十三年、私の居住地は大阪ではなく。遠い北陸の地、石川県に在住していたからなのです。あ、お仕事のことですが、断章2でお話した通り、先輩である社長と都度衝突するようになってしまい、ほぼ喧嘩別れのような形で退職しています。そうして、石川に行くまでの間に、トラック運転手を一年ほど経験したのですが、これが


 ――別に大阪だけで生きていく必要ないんじゃね? と、『ほむらが宿ったぜ!』


 ……とバカ一番星になってしまったのです。因みにその時、暮らした所は、石川県『野々市市』と言う、金沢に隣接していながら、他府県の方は「どこそれ?」な場所に住んでいました。ただ、ここがややこしいのですが、大阪の自宅はしていたので、勿論ですが彼女との出会いはです。え~、つまりです。彼女がのは独身時代の大阪のマンションと、その後生活基盤を安定させて、正式に結婚した後の石川県のマンションの二箇所になるのです。ん~、これでも多分伝わらないとは思いますが、とにかく、私たち夫婦はそんな背景で石川県在住者になっていました。


 ――ね、ややこしいでしょ。こんな事、あのお話に挟むとかなりこんがらがると思ったので、端折ったんですが、次の職のお話が出来なくなってしまうので……。


 私が石川に暮らして五年、奥さんたちがこちらに来て二年目、息子が無事一歳の誕生日を迎える頃、私は転職の決意を打ち明けました。何故なら当初、この石川県で働いていたのは所謂「契約社員」という物でして、二年毎の更新になっていたのですが、周りの連中から「三度目の更新は無いらしいぞ」と話を聞いてしまったからです。もちろん当時の契約社員ですから、昇給もなければ正社員登用も、期待できません。ただ、専門技術職だった為に高給を頂いていただけ、だったのです。そんな中、子供にはこれからどんどんお金が掛かっていく。幾ら若い頃からの貯蓄が有ると言っても、有限では有りません。現に結婚や出産など、事あるごとに湯水のように出ていったのです。帰宅し、子供の寝顔を見るたびそんな現実が頭をよぎり、職場で同じようなパパ友と相談した結果の相談でした。


「……正社員で探すの?」

「そうやな、俺ももう三十半ばや、これを最後の転職にしたい」


 流石に簡単に頷くのは難しかったと思います。勿論私も悩んだ末の相談です。子供はまだ小さく、奥さんを働かせる事は出来ません。でも、契約社員となって既に二回の更新は行っています。猶予がないのも現実でした。結果、翌週から私の転職活動はネットから始まり、二ヶ月後には面接の日取りが決定していたのです。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「……〇〇さん、私達の会社はまず、本社勤務をして頂く事になりますが、問題有りませんか?」

「……え? あ、あのそれは一体――」

「あぁ、ウチの会社、一応日本全国に有るでしょ。ですが、その本採用には直々に本社の会長と社長の両名が行うんですよ」



 平成十八年のとある平日、時間は午後二時を過ぎた頃だったろうか。私はとあるリース会社の石川支部の事務所内で、面接を受けていた。当時の私はこう言った、全国展開している会社というものへの面接経験がなかったのだが、よくよく考えてみれば少しおかしな話だ。いや、本面接で本社へ向かうのならまだ理解できる。何しろその頃はネット社会と言った所で、ネット面接など聞いたことがなかった。故に大会議や、行事の際に本社に集まるのは理解できる。……が、いきなり本社勤務とはどういう了見なのだと、今なら即聞き返したと思う。


「……あ、あの、私は既婚者で、まだ子供も小さいのですが?」

「……あぁ、そう。じゃ社宅になるかな」


 いやいやいや! なんでそんな一足飛びになるんだ? 大体社宅がどうのとこの人は何を言っているのだ? そう疑問の目を彼に向けると「なにかおかしい事言ってる?」と言う表情で返されてしまい、あぁこの人の中ではそれが当たり前なのかと考え、結局、翌日に返答すると伝え、私はトボトボ帰宅したのだが。


「……普通、いきなり家族丸ごと引っ越して、本社勤務なんて有る?」

「は? いきなり何の話?」


 帰宅し、奥さんに聴いた途端、そんな返事が返ってくる。まぁ、意味のわからない質問をしたのは、私なのだが。その時は流石に少し混乱していたんだと思う。その後順序立てて経緯を説明すると彼女は一旦長考の後、口を開いた。


 翌日、私は今一度その会社へ向かうと、採用担当の方へこう告げた。




 ――先ず試用期間内は、単身で本社へ向かわせてほしい。と――。

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