第26話
――名は体を表す。
さて、母子ともに無事出産を終え、息子殿は五体満足な健康体で、我が家に来てくれました。彼の息子としてのお仕事は、何をとってもすくすく元気に育つ事です。そのために親たちは全力で頑張るのですから。
そう! そんな両親が子供に最初にしてあげる事と言えば……『名付け』
出産予定日が決まり、奥さんのお腹がぽっこりし始める頃、まず向かったのは書店です。確かに既にネットがあり、何かあれば検索をと皆さんならお思いでしょう。現代っ子ならブラウザを立ち上げれば虫眼鏡マークが有って、そこに書き込めば瞬時に答えが見つかります。
……が! この頃のネット検索はそこまでの利便性は有りませんでした。確かに検索エンジンという物が開発されたのは数年前ですが、今や誰もが知りすぎて最早死語にすらなった「ググレカス」でおなじみのグーグルですら、当時はまだまだ無名に近く、ほとんどの人達はヤフー検索や、各プロバイダのホームページや、ブラウザ依存の検索が中心でした。……まぁ、それの中身はグーグルエンジンが多かったんですが。そして何と言ってもその検索方法が、今ほど便利ではなかったのです。今のようにAIが入っていることも有りませんし、曖昧検索なんて勿論出来ません。……ではどうするのか。ヤフー検索ならカテゴリを選択し、そこから絞り込んで……と言うディレクトリタイプだったのです。グーグルは最初からロボットタイプというものを積んでいましたが、あの味気ない検索窓しか無いページ……。真っ白な画面に四角い窓とgoogleと横文字。まぁ、でもこの当時からグーグルにはきちんと画像検索も有ったんですけどね。そんな検索方法ですから、ガラケーの検索など、本当にたかが知れる状態だったのです。
……あぁ、何故ここでガラケー? とお思いでしょう。私、この頃自宅にパソコンは持っていなかったのです。実家には昔に買った超高級産廃パソコンは鎮座していましたが、自宅には置いていませんでした。別に購入出来なかったわけではないのですが、日曜以外は朝から深夜近くまで労働し、休みの日は当然ですが彼女が居たのです。ガラケーは進化し、「スマホ」もチラホラし始めた当時、わざわざ、自宅でポチポチする時間は無かったわけです。
……子供が産まれてすぐ、奥さんの希望で、購入しましたが、デジカメと共に。
閑話休題。
そう言う理由で、書店の「子供の名前」コーナーなんて有るのかと書店員さんに聞くと「はい! こちらです」とあっさり。……まぁ、有るわ有るわ、棚の上から下までびっしりと。「風水から読み解く子どもの名付け」「四柱推命――」「運命は名前で――」……。背表紙を見ているだけで目眩がしましたよ。堅っ苦しいなと目線をずらせば「ベスト名前順位表」「画数から読み解く運命の名」「難読、珍名!絶対駄目な名前の――」辺りまで見た時、奥さんが「超ダリィ! ナンコレ?」と漢字だらけの背表紙に文句を言い始め、下の台に平積みされたペラッペラの「キラリ!王子や姫にはこの名前!」を手に取った瞬間「良し! 皆に聴いてまわろう!」とそっとその本を取り上げました。
――そうした紆余曲折を経て、彼にはとある意味を込めた、一字の名を贈ることにしました。
正直、名付けがあんなに難しいものとは想像の埒外でした。確かに難しく、嫌になるほど悩みましたが、今思えば、そんな事を出来ること自体が「思い出」となり、息子が「僕の名前、なんで◯なん?」と聞いてきた時、話す口実が出来るのだと……。因みに私の母に私の名付けを聴いた所「近所のお寺さんで坊主に画数で決めてもろた」です。当時は悩んだかと聞きましたが「知らん!漢字もそのぼんさんが書いてくれたからな」……と。そこで妹はと聞いてみた所「あれはおとんが決めてたみたい」
――親の愛情って、差があるんですね……泣いていいですか?
哀しいオチも着いた所で、ここらで名付けの話はお終いにしましょう。
そして激変したのはやはり、日々の生活。全てが赤ちゃん中心に回り始めます。所で皆さん、こんな諺を聞いたこと有りません?
――一姫二太郎三茄子。
所謂、子供を生む順番の理想形と言われるやつです。「三茄子」と言うのはどうも諸説あるらしく、一富士二鷹三茄子からもじったとか聴きますが、縁起の良いことと結びついていて良いことだと思います。ただこれ『三かぼちゃ』というのも存在してまして。まぁ、詳細は調べるとすぐ出てくるのでここでは割愛します。とにかく、肝心な部分は「一姫二太郎」でして、その理由が何とも現実的なことだと、至極実感致しました。
……まず、夜泣きの声が大きく、泣き止むまで時間がかかる。まぁ、個人差が有るので一概に決めるのはどうかと思いますが、当時のママ友さん達から聞くと、やはり男の子は総じて女児より声が大きく、またその泣く頻度も多いと愚痴っていました。それから、これが一番なのですが、何しろ子育て自体が初めての経験。ミルクを飲ませた後のゲップですら、立て抱っこが上手く出来ず、私のシャツはミルクまみれになることもしばしば。寝返りを打てる喜びの反面、ベビーベッドが揺れるほどに暴れ出し、掴まり立ちが出来るともう、まじで柵ぶっ壊すんじゃね? ってほどの傍若無人ぶりを発揮します。お陰で睡眠時間は削りに削られ、すくすく育つ息子くんに対して私達二人は大きな隈が育っていきました。
……それでも、その瞬間はきちんと写真撮りましたけどね。
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