第23話
――常識と、一般論がこんなにも冷たいのだとは知りたくなかった。
時に平成十二年、私がこの世に生を受けて丁度三十年が経った。日常は変わること無く、仕事に追われる日々では有ったが、色々な意味で充実していた。歴史的なことに少し触れてみれば、何と言っても前年半ばからまことしやかに騒がれた『2000年問題』が筆頭に上がるだろうか。そう、俗に言う『Y2K』と呼ばれる、西暦 2000年にコンピュータの年号認識システムが混乱し,さまざまな影響が現れると言われたあれである。
実はこの二年ほど前に、一般家庭に急速に普及したパソコン、そのOSと呼ばれるマイクロソフト社から発売された「ウインドウズ98」によって、インターネットが日本でも爆発的に普及、拡散され、テレビから「詳しくはダブリュ、ダブリュ――」とホームページの宣伝が毎日流されて、頭の中でリフレインされていたのを苦々しく覚えている。
突然ですが、質問を一つ。
――アナタは「世界が終わる」と聞いて、何を思い浮かべますか?
平成後期の生まれの方々に、こんな質問は酷かもしれないかな。「終わってほしい」とか「ありえない」など、様々な賛否意見が出るのは勿論、大概は素で考えるかもしれないですね。……んんっ、では私、昭和四十年台生まれの代表がお答えしましょう。
――西暦1999年7の月、空から恐怖の大王が降りてくる。
……はい、
ん? 何故今その話を? もうおわかりでしょう、日本で「2000年問題」が殊更、テレビで話題になった原因の一つ。何しろ、ほんの十数年前に、あんなに流行った出来事です。そこへまことしやかに囁かれ出した「コンピューター問題」マスコミの格好の餌になったそれは、年が明けるその瞬間まで、大きな不安と、小さな期待で凄い事になっていました。
――よくよく考えれば、あれって一体何だったんでしょうかね。
大人や子供も一緒くたになって、世界が終わるかもなんて。どう考えてもおかしな事なのに、そこまで日本はある意味、おかしくなって居たんでしょうか。
バブルが弾け、低迷し続ける景気に就職できない大学生。卒業=就職の式は覆され、結果バイト人生を余儀なくされる。学歴差別が顕著に現れ、高学歴者ですら、選別されてしまうという「超買い手市場」へ掌返し。
……そう言えば、この頃からだろうか、あえて就職をせず、実家で親と暮らし、家から外に出ない者たちのことを『NEET』と呼称するようになったのは。
閑話休題。
世間ではそんな出来事が取り沙汰されて居ても、日々日常を生きていく事に変わりはなく。私はその日も職人たちと一緒になって、現場で作業に勤しんでいた。そしてもう一つ、私の身の上で変わったことが起きていた。
……それはきちんと、親の公認を頂いた交際を始めていたのである。
正直、事の始まりは不純だったと思う。結局なんだかんだといった所で、私は唯の「馬鹿な男」だった。女性との恋の駆け引きというか、その先の……が……ゲフンゲフン。ま、まぁともかく理由は不純でゲスだった。『テレホンクラブ』や『Q2ダイヤル』を早々に廃れさせた「インターネット掲示板」それは昭和の新聞や週刊誌に在った『文通』文化を再燃させ、爆発的に『出会い』の形を変革させていく。携帯電話にネット機能やメール機能が搭載され、個人のやり取りがより複雑化し、面妖なことに見ず知らずの人間との交流が、普通に出来てしまうと言う。片方では見知らぬ人間との接触を嫌うのに、これがメールやネット上だけではその垣根がどう取り払われるのか、普通に出来てしまうという歪。
それは「匿名」と言う大きなアドバンテージのお陰なのか、それとも根源的に有る「繋がり」を求めていたのか……。
ともかく、インターネット黎明期から過渡期に掛け、急速に広がったその文化は、やがて来る「闇バイト」へのトリガーの一つになっているのかもと誇大妄想してしまう。
いやいやいや! ナニイッテンだ?! ……どうもオジサンという生き物はすぐに話が逸れて行ってしまう。そんな心配は今はどうでも良くてだね……。良くはないかもしれないが、今の話とは関係ない。
要するに、当時の私もその大きな「ビッグウエーブ」に乗っかって、掲示板での出会いを楽しんでいた。
始まりは唯のメール交換から。そうして話題を交換していく中、身体的特徴を知る前に相手の内面を知った気になっていく……。それが作り物か真実かも判らぬままに。そうして互いを知ったつもりになった当人たちは、いつの間にやら芽生えた感情を「恋愛」だと勘違いして、最終的に出会い、打ちのめされ、疑心暗鬼を繰り返して同じ事をまた、繰り返していくのだ。
――「次こそ」はと……。
かく言う私も多分に漏れず。そんな事をいくつか経験した。いや、勿論騙される側で……。
つくづく、お馬鹿なオジサンです( ;゚─゚)
……正直、私は嘘が苦手ではないが、下手だった。現に今までそれが原因であんな事件を起こしてしまったわけですし、大体、出会う事を目的にしているのに、嘘をついてどうするのかと言う考えが根っこに有った為、プロフにそんな事は書かなかった。
――後、これはホントに蛇足だが、ネットであろうとリアルであろうと、私の言葉の向こうには『人』が居るのだと思っていたから。
――対等であり、真摯に向き合う事ができないのなら、それは既に自身を信じるに足る事が出来ないと思っていたからである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます