第82話

 煙が一瞬で晴れ、さらに千代女は樹木への衝突を避けるために立ち止まらざるをえなかった。

 とたん、千代女は頭上から降ってきた影に抱きつかれる。

 腐臭が鼻をついた。間近に腐り腐汁をしたたらせる死者の顔が肉薄する。

 転瞬、千代女は和(やわら)の技でもって拘束を瞬時に解くや投げ飛ばしていた。が、それを嘲笑うように頭上から驟雨のごとく影が降る。

 一分の隙もない動く死者の包囲が出来上がった。

 おそらく、これが敵の鬼道――千代女は胸のうちでつぶやきながらも、投げ飛ばして首が本来曲がらない方向に曲がった死体が起き上るのを確認して舌打ちしたくなる。

 鬼道を使う鬼は一体とは限らない。いや、こちらを確実に討ち取ることを考えると、複数の鬼道使いがつかわされていると考えたほうがいい。その結論に、千代女は背筋が寒くなるのをおぼえた。

 ほかに近くに手下が弥左衛門だけの状況では絶体絶命だ。生き延びる術は、どれだけ知嚢をしぼっても浮かばない。

 千代女に無数の銀光が走った。鬼、人の入り混じった死体のくり出した斬撃だ。

 跳躍、すべての攻撃を草鞋のかかとをかすめ削られながらも避ける。

 刹那、空気を裂いて円形の刃が飛翔してきた。千代女は無理やりに体をひねる。脇腹を裂かれながらも一撃を避けることに成功する。が、二枚目の円刃(えんじん)が千代女を襲った。さらに背後に唸りが聞こえ、一瞬裡のなかで千代女は視界のはしで最初の得物がもどってきているのを視界にとらえる。

 このままでは、首、胴、と同時に薙がれる運命だ。

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