第77話

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 尋問は段階というものがある。まず、嘘をつく必要のない話題をふり“平素”の相手の挙動というものを読み取り目印を作るのだ。こうすることで、細作が身につけている偽りを口にしたときに人が見せる表情やしぐさの変化を読み取る技術は効力を発揮する。

 嘘や偽りの兆候が人と鬼が共通であることは、南蛮浄土との戦で敵に寝返りふたたび味方にもどってきた者への閻魔王の命のもとの尋問のくり返しで千代女が証明していた。

 しかも、こたびの相手は南蛮浄土の者ではない、丁重に扱わなかったところで向後の和睦の運びに影響はない。暗い土蔵のなか、天井から吊り下げた水をたっぷりと含ませた麻布の下に、まずは一日縛って置いておいたという。その後、戸を開け放つと、待っていたのは己の鬼道を無敵のごとく誇り不敵な表情を作っていた鬼ではなく、散々に打ち据えられた家僕のごとく憔悴した相手だ。話に聞いていたようすとの違いにメルショルは愕然となる。

これが拷問の力というものか――たかが、水に濡れさせつづけることで相手の心を挫く、そんな術を編み出す透波というものにあらためて戦慄した。

 だが、これは他人事ではない。自分も“加担”している。そのことを肝に銘じた。伴天連の言葉だから、神の教えだから、ではなく必要なこととしてみずからが判断し、おのれの責任のもとでおこなっている。

 結局、“大いなる者”を求めることは“逃げ”にしか過ぎない。逃げるから、考えることも避けてしまい、結果として無思慮に際限のない非道に及んでしまう。

 だったら、考えた上でここまでという限度を定めてみずからの手を汚すほうがましだ。

「た、頼むから、もう水をしたたらせるのは止めてくれ」「さて、それはあなた次第ねえ」

 鬼の懇願に、あくまで“今すぐ”ではないと千代女が薄ら笑いで応じる。

 わかりやすく、鬼の顔が蒼褪めた。人を責め、苦しめているはずの地獄に鬼が人間に心までも蹂躙されるというのはどうしようもなく皮肉だ。

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