第71話
事前の接触で、とにかく高圧的に接してくる相手だと把握している相手だ。今配った書面はこの相手の対策でもある。
「我らはあくまで和睦の仲介者、譲歩、条件の変更は任されておりません。このように、十王より和睦のための取り決めはすでに定められておりまする」
メルショルは明るく親しみを込めて笑った。ひたすら“否”という言葉をくり返す戦法は通じない、とつたえるために。この戦術は強力である反面、その相手との交渉は一度きりであることなど条件に制約もあり必ずしも万能ではない。
「まあ、致し方ありませぬな」
最初に声を発したのと別の天使が肩をそびやかす。
「ありがとうございます。元はといえば、行き違いとはいえ地獄の非礼が招いた戦の和睦に骨折り頂きまことにありがごとう存じます」
メルショルは相手の声にややかぶせるように頭をさげた。事情を知らない者には卑屈にも映る態度だ。
しかし、これは弱気になっているわけではない。策略の視点に立って、下手に出ているのだ。戦で劣勢に立たされているのだからすでに軽く見られている、それなら卑屈ともとれる態度をとったところで失うものはない。むしろ、謝罪するという先手を打つことで主導権を握る方策を取る、とあらかじめ千代女、道鬼斎との談合で決めていたのだ。
「人であるそなたらがそこまでの詫びを入れる義理はないが」「詫びるというのなら、とりあえず受け入れよう」
最初に声を発して天使を除いて、天使たちが一瞬視線を交錯させてそれぞれうなずいた。それぞれの顔には同情、憐れみがにじんでいた。
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