第69話

「地獄が戦での敗北を大敗の時点で認めればよいですが、もし最後の一匹が討死するまで戦うとなったらいかがなさいますか」

「さような話が出ているのか」

「さて、十王の側ではどうかはわかりませぬが、囚鬼衆のあいだではさような意見も出ておりました」

 破滅的な行動を取ると脅し損得勘定をさせる手管、嘘はついていない、という交渉の定石をメルショルはもちいた。茨木童子の仲間たちが南蛮浄土に突貫をかけようとしたのは事実だ。相手が話の裏をとってもメルショルが嘘つき呼ばわれりされ信用を失う心配はない。

「わかった、考えておこう」

 長い沈黙の末、穏健派の天使はメルショルの述べたことを考慮することを約束する。そこに偽りがないか「口元を手で覆う、鼻をつまむ、そういった嘘の徴候は見られない」と天使からすこしはなれたところで千代女がメルショルに小声で告げた。


 他方で外様衆の透波乱波を選りすぐり、陰働きのほうも進められていた。具体的な会話を入れて

 南蛮浄土の本陣の顔ぶれが末端には知られないようにしている、唐土のほうで残された戦国武将たちと鬼が善戦し天界を苦戦させていることと風聞として飛ばしたのだ。南蛮浄土側も雑役のために人間の魂は使っており、そういった者の中には海の向こうで没した日の本の者もおり、そういった連中に南蛮人、伴天連を通して噂を流させている。

 他方、地獄、南蛮浄土双方の和睦に邪魔な者を「和睦に傾きつつある」と偽りの話を流して囮とし誰がどう動くか見張りに当たらせた。根気のいる作業だが、欠片と欠片をつなぎあわせることで“ひとつの絵”がいずれは見えてくるはずだ。

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