第60話

 それはともかく、刺客を着実に始末するためにあえて無警戒をよそおってのだが、刺客から這い寄って樹の根に気づかずメルショルは事前に何かが起こると知っていたというのに危うく殺されかけた。

「にしても、縛めを受けた上でよくのがれられたな」

「き、鬼道を使えるようになった」

 やや感心した顔つきをする善鬼に、メルショルはしゃがれた声で応じる。“そのとき”が来れば自然と目覚める者は目覚め、使い方を会得すると聞いていたができることならもっと余裕のある状況であって欲しかった。一歩間違えば手遅れになっていたところだ。

「だが、その調子じゃあそのうち命を落ちしかねねえな。いっそ、俺の指南でも受けるか」

 善鬼はからかう調子で言葉をかさねた。

 メルショルはわずかに沈思黙考し、

「お願したい」

 と首肯する。これには善鬼のほうが意外そうな顔をした。彼自身も、こちらが彼の人柄をあまり好んでいないことを感じていたのだろう。

 だが、メルショル自身が死んだ地蜘蛛の子への鬼の扱いと切支丹の共通点を見い出した瞬間から変わったのだ。表面的かつありふれた価値観にしたがうことに疑問をおぼえた。

 善鬼は荒くれた物言いことするが、よく考えれば野武士(のぶせり)に対して真っ先に突っ込んで行ったのは彼だ、好ましい人物ではないが間違ったことはしてない。それに、メルショルよりも圧倒的に技量で勝るひとかどの兵法者だ。

 だったら好悪を越えて教えを乞うのもまた一つの選択だろう。

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