第59話

 とたん、

「四縦五横、禹為除道、蚩尤避兵――」

 とメルショルの口から呪文がこぼれ出て、根と首の間に片手に差し込もうとしながらももう一方の手の指先が縦横に動いた。声はかすれてほとんど音にならなかったが、やがてそれが完成する。

「留吾者亡、急々如律令」

 瞬間、根の動きが止まった。それを悟った瞬間、メルショルは近くに脇差を引き寄せて根を半ば強引に切断し首からもぎ取った。しばらく何も考えられずに仰向けの姿勢で荒い呼吸をくり返す。

 やがて、悲鳴が聞こえたかと思うとすぐに止んだ。

 今のは恐らく鬼道の攻撃だった。となると、仲間の誰かが術者を討ち取ったのだろう。

 メルショルの陣屋に影が入ってきた。

「んだよ、だらしねえな、おめえ」

 善鬼がこちらの有様を認めるや顔をしかめる。こちらの状態への同情はみじんもうかがえなかった。メルショル自身も反発より恥じ入る心持ちを抱いた。

 実は、天使の陣営に赴いていたとき、ふいに通りすがりの者に紙片を手渡されていたのだ。一瞬のことで、しかもちょうど、周囲に複数の天使がいる状況で誰がなしたかはわからなかったが、そこには『今宵、天国の刺客の襲撃あり、留意なされよ』という文言が記されていたのだ。

 このことから分かるのは、天使にははっきりと主戦派と反戦派が存在するということだ。しかも、後者もそれなりの組織力を持っている。

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