第52話
時はさかのぼる。間諜は確かに一行のなかにいた。
川辺にその者はたたずんでいた。和睦のための集められた顔ぶれは変成王の元でひとりひとりで動くことも多かったため、「変成王との談合が上手くいったことの礼を家中の者に告げに行く」という口上でなんの疑いも抱かれずに仲間の目をのがれた。
そして、ここには一匹の鬼卒がたたずんでいる。おそらくはつなぎのための者だ。鬼のなかでは目立たない中庸の風貌の地獄の住人だった。
川辺を選んだのは見通しがいいためだ、誰かが近づけばすぐにわかりみずからを見張る存在も察知しやすい。
「承知したぞ」と鬼卒が応じる。
内容は、変成王から逗留先として与えられた屋敷のどの部屋で誰が寝るかについてだ。誰かが気紛れでも起こさない限り、そう変わるものではない。宿所としている屋敷は筑紫の嶋に与力として派遣された家中の者の所有であり、下男と下女が残っているだけで奇襲には都合がいい。
「それにしてもありきたりではあるが、仲間を裏切って胸は痛まないか」
迫力に欠ける鬼卒が反応を楽しむような顔で問う。
別に、と内通者は答えた。
裏切りの理由は金や栄誉のためではないし、免罪でもない。そもそも、地獄で蓄財しようが誉れを受けようがしようがないでないか。
訳は簡単、復讐だ。
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