第27話

「伊留満(イルマン)パブロ」

 とっさに相手の名を口にする。

 側に喜色満面の笑みで近づいてきたのは、乱世で生きていくのは辛かったであろう人の善さそうな面立ちの優男、切支丹の仲間だ。

 だが、喜びもつかの間、互いの表情が翳る。そうか、死んでしまったか、思ったことは同じだろう。

「パブロはなぜここに、人手が足りなくてな小者として連れてこられたのだ」

「さようか」

 娑婆でも戦に翻弄され、地獄ですらも戦いに駆り出されている、仲間の現状にやりきれなさをおぼえた。

「メルショルはどうしてここに」

「実は」隠すことでもないだろう、と自分の役割をつたえる。

「ほう、それはすごいではないか」

 パブロは生来の人の善さで素直にメルショルを称賛した。なおも言葉をかさねようとしたところで、

「おい、伴天連かぶれ。伴天連かぶれはどこだ」

 という声が近くから聞こえてきた。

 とたん、パブロが切なげな顔を見せ「すまん、呼ばれている」と告げて「縁があればまた会おう」と去って行った。

 伴天連かぶれ、か――切支丹がこの場でどんな扱いを受けているのか、説明されずともなんとなくわかる言葉だ。しばらくパブロの背中を見送り、その姿が見えなくなったところでメルショルは夕餉の輪にもどった。

「すまない」

 ふいに岩布が詫びのせりふを口にする。

「お手前が謝ることではない」

 メルショルは首を左右にふってこたえた。

 それから数刻ののち、そろそろ寝るか、ということになって与えられた陣屋を出て小用のため近くの茂みへと向かったときのことだ。

 なにかが視界をよぎるのを感じてメルショルはそちらへ視線を向けた。

 そこには千代女が佇立する姿がある。

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