第24話
● ● ●
早々に一行は発砲地点を通り過ぎた。やがて、千代女たちは地獄の側の陣へとたどりついた。遠回りをしてもどってきた形だ。
「まさか」と牛頭が顔色を変える。
そんな彼に千代女が落ちついた声音で問いかけた。
「先の小競り合いで鉄砲は使いましたか?」
「いや、乱戦だったからな、おまえたちが考え出したあの得物は中々の優れものだがあの折に使える代物じゃあない」
「確か、鉄砲の数はまだまだ少ないはずですね」
「ああ」
「でしたら、全部を一所に集めてください。ただし、どれが誰の使っている物か分かるように整えた上で」
千代女と鬼の言葉は理解できないだろうが、探索の末に“ここ”にたどりついた事実に天使の軍監ファヌエルは鋭い目つきとなっていた。
牛頭は逡巡の気配を見せたが躊躇(ためら)えばかえって余計な誤解を招くと判断したのか、
「わかった」
と首を縦にふった。
既に陽は沈み夜が訪れている。篝火がたかれるなかで、鉄砲の検分はおこなわれた。一丁一丁、千代女があらためていく。緊張の時が流れやがて、
「この鉄砲、真新しい硝煙の匂いがする。それに火縄からも新しい“焼け焦げ”の香りがする」
と千代女が一丁の鉄砲を示して告げた。
刹那、彼女に向かって一匹の鬼が颶風(ぐふう)と化して襲いかかる。
鬼が宙に走らせた銀光を、メルショルは与えられていた差し料で抜きぬけの一閃を送った。とっさに京流のすり落としを試みたのだ。
が、転がる岩を打ったような感触とともに得物は弾かれる。メルショルは腕の筋を痛めたのが感触でわかった。鬼の一撃は勢いを減じることなく千代女へ向けて走った。
「城取(しろとり)、急々如律令」
鬼の一閃が千代女をとらえる。寸前で道鬼斎の声がひびき、突如として“壁”が鬼の前に立ちはだかった。
猛烈な一撃はすれすらも裂くが、埋もれて止まる。
「乱心者を捕えろ」
とたん、鬼の小頭の声がひびき、唖然となっていた周囲の鬼が遅まきながら動いて凶行に走った鬼を取り押さえた。
「やはり、鬼が下手人だった」
メルショルは痛みに顔をしかめながらもつぶやく。
「思い込みは禁物ぞ、あやつが敵方に内通し下知を受けたということもありうる」
そんな彼を道鬼斎がたしなめた。
確かにいわれてみればその通りだ。そして、未だに自分が信仰をいびつな形でも保とうとしていることに気づかされる。
殺されかけたというのに――信じていたものが崩れてしまった昏い気持ちもあるが、みずからの愚かさへのうんざりとした思いもメルショルの胸のうちにはわきあがっていた。泳げぬ者が海原に投げ出されたかのごとく、負の感情に溺れてしまいそうな状態だ。
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