延長する討論会

「他国から学ぶ、ですか。」大井河は自然と口に出していた。


「先ほど他国がどんどん成長をしていると、お話しさせていただきました。勿論、各国それぞれの取り組みの努力の成果の現れでもありますが。その理由には、ある根拠が一つあります。」と仁戸名が穏やかに話す。


「根拠とはなんでしょう。」いつの間にか大井河は引き込まれていた。


仁戸名は、ほんの少し間を置き、ゆっくりと、

「それは、ユル、いや、ユレネイド(you laid upon nesting doping)です。」と話した。


「ユレネイド、ですか。」すかさず大井河がオウム返し。

あの仁戸名が、やはり少し動揺しているのか、噛んだ様子も気になったが、大井河はそこにつっこんで話の腰を折りたくはなかった。


「はい、ユレネイドです。」


ここには、大井河と仁戸名しかいないような空間となってしまっている。


「それはどういった具体策なのでしょう。」


「私も勉強中なので、多くのことはわかりませんが、現在多くの国で、このユレネイドが活躍しているのです。」


「活躍、ですか。つまり、何かの組織や団体ということでしょうか。その組織から様々な知識や技能を教えていただける、と。」


「あ、いえ。ユレネイドは、人あるいは人の集まりではありません。人工のチップです。」


「チップ、ですか。」


「そうです。人用のチップを身体に埋め込むことで、私たちの能力が幾分か上昇するという仕組みのようです。」


「、、、、。仁戸名さん、正直申し上げて想像がしづらいです。」


例年であれば討論会はすでに終わっている時間。

テレビ画面の上側に、「当番組は30分時間を延長してお送り致します。」のルビが流れている。


「そうですね。似ているものとしては、あくまで近いという話ですけど。医療でいうところの、人工の心臓のようなものですかね。今のご本人の心臓の活躍では賄いきれないものを、科学の力を借りて補填するというようなものだと考えると、イメージしやすいのかなと思います。」


「なるほど。何かしら欠落、あるいは不足しているものを、そのチップで補えるということですね。」


「そう考えていただいて構わないと思います。」


「一応、理屈的なものはわかりました。それで、そのチップが、ユレネイドでしたっけ、その科学力を導入することで、我々日本人は成長を遂げることができると。」


「私たち、はそのように期待しています。」


大井河は、なるほどと相槌を打ちながら続ける。

「二つ、仁戸名さんにお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか。」


「私の持っている知識の中での回答で宜しければ。」


「一つ。そのチップが他国ではどの程度使われているのか。もう一つ。なぜそれほどまでに有能なそのチップが存在していることを、私たちが知らないのか、です。」


「一つめの回答ですが。これは今は世界でも十に満たない国でしか導入されていないということのようです、という回答しかできないです。ただ、その国の一部に、ここ数年で変革を遂げたアルベルド国やボウモネ国も入っているということのようです。ユレネイドの試作試験に手を挙げた国ですね。

もう一つですが。逆説的になりますが、私たち機会党がどうしてこの情報を得ることができたのか、についての方向からお話した方が理解していただきやすいかと思うので。。。」


大井河は大きく頷きながら、両手を前に出しどうぞどうぞとジェスチャーをし、「よろしくお願い致します。」と言いつつも、腕時計を見て終わりの時間を気にしたが、それは些細なことだと感じている。

もはや番組のことよりも自身の興味が優先していることに大井河は気付いた。


次の番組を楽しみにしていた国民から、

ネットには嵐のようにクレームの投稿が、

テレビ局には鳴りやまないクレームの電話が押し寄せてきていた。

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