選挙前討論

「時刻はお昼の12時45分。

さあ、明々後日に迫った選挙について語っていただきましょう。」


今更何を語るのだろうかと思いながらも、このテレビ局は並歩党からの多大な寄付により成立しているといっても過言ではないので、世間からいつも通り『並歩党のオンステージだ』と言われようが関係ないと、大井河(おおいかわ)は自分を納得させ、明るく一人で司会進行役を務める。


「それでは、お好きな方からどうぞ。」


「我々は、謙虚な気持ちを持ち続けて、来年度も引き続き、皆さんのお声を大事にし、この国がより良くなる選択をし続けて参りたいと考えております。」


何の重みもない無難な単語で固められた言葉を発したのは、並歩党きっての若手エースとされている城之坂(しろのざか)である。


「我々は、何かしらの形で助力させていただければ幸いに思っております。」


続けて言葉を発したのは、城之坂の2倍以上も年を取っている共協(きょうきょう)党の兎沼(うさぬま)である。


兎沼は、現在の政界の中でも、いわゆる大御所に入るほどのベテランであるにもかかわらず、というか、そのような人物であっても、並歩党の前ではただのお飾り状態である。


ネットでは、共協党を、並歩党にただくっついているだけで野党の意味を成していない、あるいは並歩党のお供え物だと供供党と揶揄されるほどである。


今回も中身がないよな、と思いながらも、

大井河は、(テレビ越しの人々に嫌われないように、)なるべく平等に出席者全員に話を聞いていく。


「機会(きかい)党の仁戸名(にとな)さん、いかがですが。」


機会党は、ここ6年程で参入した新しい政党である。

今の時代、新しい党ができようがどうしようが何も変わらないのに、

「多くの人に発言と改革の機会を」という大層な志のもと結成されたようであるが、

『期待通り』特に大きな成果もない。


正直、話を振る意味もない。

毎回同じ、台本でもあるかのようなセリフを発する。


仁戸名は、

「私たちの志の通り、全力で行動していく所存です。」と、


今回も大井河の予想通りの言葉でこたえた。


『何が改革だよ』と喉まで出掛かっているが何とか堪えて、

『進行しやすくていいや』と気持ちを切り替えて、話を進めていく。


番組も後15分。


去年のダビングでもいいのではないか、と思わせるような1時間が今日も過ぎ去ろうとしていた。


「さあ、皆さん大変貴重なお話をしてくださいまして。お時間があっという間に過ぎ去ろうとしています。」と、大井河が番組の締めくくりにかかろうとしていた、


その時であった。


「一つ、よろしいでしょうか。」機会党仁戸名が言葉を発した。


一瞬、時が止まったように感じたが、


ハッとした大井河は、

「どうぞ、仁戸名さん。」と急いで何とか言葉を発した。


「これからの私たちは、一体どう成長をしていくのでしょうか。」


今度はその場にいた全員が、時が止まったような感覚に陥った。


大井河が質問返しを行う。

「仁戸名さん、その真意は。」


仁戸名が答える。

「日本人は、この100年どう変わりましたか。他国が様々な変化を遂げて、日々成長していますが、この国はいかがでしょう。技術・学力共に他国にどんどん追い抜かれています。加えて、一昔前のオリンピックでは、野球は優勝候補筆頭であったのに、今となっては、予選敗退が当たり前。この現状を皆さん、どうお考えでしょうか。」


何も言葉が出ない。


沈黙が長く感じられる。


これまでにない雰囲気ではあったが、

ファシリテーターとしての役割は全うすべきだという自覚はあるようで、

「確かに、ここのところあらゆる側面で質が低下してきている、と批評家の方の数人も仰っていましたが。」と、大井河がかろうじて言葉を発する。


「そうですね。私もその通りだと思っています。その批評家の方々も、並歩党の方々の顔色を伺いながらも良く発言していただけたことと思っておりますが、同じ思いの方はたくさんいらっしゃるのではないか、と私は考えております。」と、仁戸名。


ここで城之坂が、

「つまり、画期的な打開策が、いや『改革』案という言い方の方がよろしいですかね、そういった提案がある、と。」


穿った様子で嫌味を含めて発言をする。若さ故の余裕の無さからか。


「そうですね。方法はいくらでもあるとは思いますが、私達が提案させていただきたいのは他国から学ぶということですね。」と、

仁戸名は、城之坂の嫌味を一切相手にせず、含みを持たせた話しぶりをする。

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