盛者必衰

X年12月


「すごいです。歴史的瞬間が訪れました。ただいまの選挙の結果により、順進(じゅんしん)党が議席の過半数を獲得することが確定しました。そのため、国会が開かれて以来三百年の間、政権を死守してきた並歩(へいほ)党が過半数の議席を失い、この瞬間、順進党が政権を得ることになりました。」


LIVEと表示された画面の中で、業界一美人と評判のアナウンサーが実況中継をしている。


「ありがとうございました、朝島(あさしま)さん。」画面がスタジオに戻り、年配の男性アナウンサーの顔が映る。「いやぁ、驚きましたね。まさかこんな結果になるとは。光本(こうもと)さん、いかがですか。」


年配の男性アナウンサーが、隣の女性アナウンサーに意見を求める。

「私も驚きです。私は今年でアナウンサーという職について十年目という年になるんですが、そんな年に、そしてこんな誰も想像すらしなかったようなことが起こるなんて。」彼女はしかも来週誕生日なんですよ、何かのプレゼントですかね、西山(にしやま)さん、と続けた。


「そうですねぇ。私もまさか生きているうちに政権が交代するとは思ってもみませんでしたし、この番組に出て下さった評論家の方たちもまた、誰一人として政権交代するなどと予想していた人はいませんでしたしね。まあ、ただ言えることは、決して光本アナのために政権が代わったのではないということですかね。」と、年配の男性アナウンサーの西山は興奮しながらも、後輩アナウンサーのボケに突っ込みを入れ、笑いを誘い、そして続ける。

「まあ、選挙を目前にしたあの三日前の事件が原因でしょうかね。」


「そうですねぇ、おそらく。」光本も同意する。


そうなのだ、この選挙については誰も予想ができなかった。

あの三日前の出来事さえなければ、私たちが負けることはなかった。

私たちがこんな屈辱を受けることもなかったのだ。


それは、この時期の恒例行事で、テレビ番組で催された各党の代表が集まっての討論会での出来事だった。

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