就職

「暢さん、お疲れ様です。」

今日も定例の報告会議に僕は出席していた。


「白賀岩さん。今日もありがとうございます。」


「会議への参加は急遽開催のものを含めて、今日で6回目の出席ですかね。」


「そうですね。世界で色んなことが起こってるんだな、とは思うんですけど。。。」

何となく参加して、世界情勢(?)なるものが知れてはいるものの、それらが何を意味するのかは正直よく分からない。


「そうなんですよね。私たちは、この日本だけではなく世界各国で困っている人たちを助けたくて集まっているので、情報が命なので。色々な情報が入ってきて頭が疲れてしまいますよね。」


「すみません。でも、『政治家』って色々やることあって大変ですね。。。僕もそろそろ就職のことを考えていかないといけないんですけど。政治家さんにはなれないなって思って、いい勉強にもなってます。」

色んな国の情報を取ってきたり、それをまとめたりするのも大変そうだし、きっとその後もそれらの情報から何か行動したりもするんだろうし、と考えると自分には全くできそうにない。

それに何より、会議で出てくる話題がすべて暗い感じがするのが聞いていて疲れる。

とてもじゃないが、自分には耐えられそうにない。


「そういえば暢さんは大学2回生ですよね。そろそろ周りも就職活動に向けて動き始める頃ですよね。」


「そうみたいですね。」

あはは、、、。と僕は苦笑いをするしかなかった。


「何かやりたいこととか、進みたい道とかないんですか。あるいは研究の道に進むとか。」


「んー。正直、何もないんですよね。今のところ。」


「そうですか。まずは今よりももっと色々な景色を見たり、情報を得たりすることから始めてはどうでしょう。」


「そうですよね、僕は知らないことが多すぎるので。」

ここにいる人たちと比べると、より一層自分の無知さを実感してしまうので、毎回恥ずかしい気持ちにはなる。


「学生の多くはそうだと思いますよ。勉強に一生懸命でそれどころではないと思いますし。ほとんどの人は、自分が経験したことや見聞きしたことの中から生きる道を選ぶことになると思います。そもそも知らないことを選ぶことはできないですからね。」


「確かにそうですね。もう少し色んなことやものと触れ合うことを意識したいと思います。ありがとうございます。」

白賀岩との会話は、自分はそもそもこの世界に興味がないとはいえ、これからもこの地で生きていくしかないのだから何とかしないといけないよな、と感じるきっかけとはなった。


「いえいえ。上からの物言いで申し訳ございませんが、何かの参考になれば。もし暢さんさえ良ければ、『今』の暢さんならこのまま私たちと一緒に活動していただいてもよろしいのですが。」


「え、いやいや。自分何か、政治家さんにはなれないですよ!」

突然の白賀岩の言葉に、冗談だとは思いつつも、驚きを隠せず、全力で首を横に振る。


「暢さんの進みたい道が特に見つからなかった場合には、いつでもお待ちしていますよ。」

それでは今日のところはこれでおわりにしましょうか、と白賀岩に言われ、僕は事務所をあとにする。


そういえば、

あれだけ毎回会議の度に見掛けていた真美の姿がここのところ見えないことに気付いた。

真美ももう、大学3回生。来月には4回生になる。

就活で忙しいのであろう。

中には3回生の半ばで就職先が決まっている学生もいると聞く。

要領よくこなしていそうな真美でも、会議に参加している場合ではないのであろう。


来年には、いや来月からはわが身のことだと考えると、気持ちがどうしても萎えてしまう。

先ほど白賀岩にも聞かれたが、そもそもやりたいことも、得意な事も考えてすらないのに。

というか、この社会で自分のできること、生き長らえることすらイメージが湧かないのに。


「あー。困ったなぁ。。。」

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