第58話 炎の男と氷魔法の女
ドゲム率いる魔族の軍団は大陸中央まで侵攻し、大陸中央を縦に割って西が人間界、東が魔界になっていた。
ドゲムとの直接対決を避けたファザリスは大陸北でスナミ、帝国兵と協力し魔族の攻撃を防いでいた。
遺跡の周りはドラゴン退治の魔族が集まり、ドゲムの部隊だけが中央から突出して西の人間界に侵攻していた。
そして南はガランドの町が完全に魔族に占領され、その西にある広い平原で、帝国兵の大軍と、魔族の軍団が戦っていた。
上級魔族の居る魔族軍の方が戦場で圧倒的有利であったが、そこに予期せぬ闖入者がいた。
どこからともなく現れた、火だるまの男が魔族軍に突っ込んで行った。
男は近くにいたハイオークにハグをした。
ハイオークは火に包まれ苦しみ暴れ出す。
近くに居た上級魔族が氷魔法でハイオークの炎を消そうとするが、炎の勢いが弱くなるだけで消すことが出来ない。
「これは久遠の炎」
それを見た魔族は皆怯み、炎の男から離れ逃げ出す。
必死に逃げる魔族の集団を炎の男はひたすら追いかける。
それを見て、炎の男が魔族と鬼ごっこをしているようだと帝国兵は思った。
逃げ遅れた魔族をタッチをするだけで炎は燃え上がり、次々捕まった魔族から炎が上がっていく。
「炎の男に近づくのは危険だ」
上級魔族は魔法で爆散させて殺そうと思い手を上げる。
その時、上級魔族の腕にどこからか飛んで来た矢が刺さる。刺さった腕が凍って動かない。
「これはどういうことだ?」
矢が飛んできた方向を見ると誰もいない。
見回すと、弓を持って地面を滑る若い女が居る。まるでアイスリンクを滑っているようだ。
足元をよく見ると。薄い氷を地面に次々発生させて移動方向にレールの様に敷いて滑っていた。
女は片手を前に出し
「フロストバーン」
走っていた魔族は急に遅くなり、炎の男に追いつかれ、接触で次々と炎の餌食になる。
恐れをなした魔族は退却していく。
上級魔族も逃げようと空に飛翔するが、氷上を凄いスピードで女が滑って近づいて来る。次々と矢を浴びせ掛けられ地面に落ちる上級魔族。
「この矢はなんだ?氷魔法が掛かっているのか。動けない」
炎の男が走ってそこにやって来る。
「まずい。あいつから逃げなくては」
しかし体が凍って動けない。
炎の男はジャンプして上級魔族にボディプレスすると燃え上がる。
「熱い。熱い。助けてくれ」
上級魔族は他の魔族達と同じく暴れて焼けただれ炭になる。
女は炎の男を見て
「上級魔族さえ倒せば少しは戦局も変わるかもしれませんわねダルトン」
「ああ。しかし俺も限界だ」
炭になり始めたダルトンは意識が無くなり、とぼとぼとどこかに歩いて行く。
ダルトンは帝国兵士達に「ファイアーマンありがとう」と言われていた。
いつも自分の体の炎を消す為に水場を求めて彷徨う姿は各地で目撃され、
ダルトンはファイアーマンと名付けられて、ちょっとした有名人になっていた。
そして氷魔法使いの女にも帝国兵はお礼を言いたいと思うのだが、地面を滑ってどこかに去って行くのだった。
氷魔法使いの女がダルトンに会ったのは、炎に包まれたダルトンが炭になって森の中を彷徨っている時だった。
「なんでこの方はこの状態で生きてられますの?」
女はダルトンにブリザードを浴びせてみるが炎は弱くなるものの消えることはなかった。
「何故この炎は消えないのかしら?」
ダルトンに興味が出て来た女はどこに行くのかついて行った。
暫くフラフラと歩いていた炭状態のダルトンは池を発見し、池の中に入って徐々に沈んでいった。
ダルトンが沈んだ所から大きな泡が上がってくる。
暫くすると池の水は沸騰して、魚や、昆虫が死んで浮かび上がってきた。
「酷い臭いがしますわね」
そしてダルトンが池から急に上がって来た。
眼球は飛び出し、骨には肉や脂肪ががまとわりつき、臓腑は垂れていた、グロテスクな容貌だった。
「うげぇ。なんですのこれ?」
ダルトンは這いずって必死に違う水場を探していた。
体は渇いて火が点き始めていた。
流れの緩やかな川を見つけて、頭から水の中に身を投げた。
それからダルトンは全く川から出てこなかった。
女が水面から水中を覗くとそれはまだ生きているようなので、出て来るまで気長に待つことにした。
2日程経って水面からダルトンの口が出て来た。大きく呼吸していたが、だんだんと普通の呼吸になっていく。
さらに暫くすると、ダルトンは川から出て来た。
「なんてことなの?復活しましたわこのお方」
目の前に若い女が居るのに気付いたダルトンは
「誰だお前は?」
ダルトンの顔を見た女は「あれ?あなたはあの時の?」
「ああ。お前は拷問室で会った女か?こんな所で何をしているんだ?」
燃える炭男に興味があったので後をつけて来た事を話すと、ダルトンもドゲムの呪いと久遠の炎について話した。
「俺が軽はずみだったんだ。まさかこんな恐ろしい結末が待っていようとは。でもあいつに一矢は報いたと思うがな」
頭を掻くダルトン。
「俺は久遠の炎を消す方法をずっと探しているのだが出来た事といえば、この燃えないパンツを見つける事だけだった」
自分のブーメランパンツを指さす。
きゃっと言って女は手で顔を隠すが、指の間からしっかりパンツを見ていた。
「俺はダルトン。お前の名前は何というんだ?」
「私はクレアと申します。よろしくお願いしますわダルトンさん。そういえばあの時、私は助けられたときにお礼をするとあなたに申しましたわね」
「しかし、なんであんな拷問室に居たんだ?あんた、そんなに凶悪なようには見えないぞ?」
「仲間があの拷問狂に捕まって再起不能にさせられたんですわ。私は潜入して奴の脳みそを凍らせてやろうとしたのですわ」
「凍らせる?あんた特殊能力が使えるタイプなのか?」
「そうですわ」と言って手の上に作った氷をくるくる回す。
「それじゃあハリーの奴は回り回って俺が助けたという事か。あいつも運がいい奴だ。別に俺が助けなくてもクレア、お前は大丈夫だったわけだな。それじゃあ別にお礼をして貰わなくても結構だ」
「いえ。私はあの時あなたの漢気に感動いたしましたわ。あなたはやさしい御方です。私にお礼をさせて下さい」
「やさしいだって?」
ダルトンが笑う。
「そんなこと言われたのは初めてだ。おっと」
ダルトンは体に火が点き始めたので川の中に入っていく。
「それじゃあ。この久遠の炎を消す方法を探すのを手伝ってくれないかクレア嬢。俺の願いはもうそれだけだ」
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