第57話 トマスの正体

 トマスはとある相談をする為にプリシラが昨日行ったというシャーマンの店に入り

「お婆ちゃん俺の相談を聞いてくれないかな?」

「この店もついに客が来るようになってきたのかね。これはいい傾向だね」

 老婆はニヤリとする。

 トマスはこの店普段は全然客が来ないのか。違う店にすれば良かったと思っていた。

 老婆はトマスを上から下まで見て

「それにしても、兄ちゃん。あんたちゃんと食べてるのかい?随分情けない体してるね。肉を食いな、肉をね」

「そんな事を言ってるからここには客が来ないんじゃないかお婆ちゃん?俺も接客業してるけどそんな事を言ったら駄目だろ」

 老婆は痛い所をつかれたような顔をして

「そんなことないよ。私は一流だからね。客が三流なだけだよ。あんたみたいなね」

 ムカッと来たトマスは

「俺はもう帰ります」

 トマスは出て行こうとすると

「今のは私が悪かった。ちょっと言い過ぎてしまったよ兄ちゃん。この口が悪いのもお婆ちゃんのチャームポイントだと思って許しておくれ」

 老婆はトマスを見てちょっと可愛い顔をしてみた。

 トマスは立ち止まり横目でそれを見ていたが、再び席に着いた。


そして気を取り直した老婆は

「それでなんの相談なんだい?」

「ああ、この指輪なんだけど抜けないんだ。子供たちに結婚指輪だと勘違いされて恥ずかしいんだよ俺」

「そんなもん石鹸とかつければとれるだろうよ。しょーもない相談だね。見せてみな」

 トマスは椅子に座り左手をカウンターに置く。

「変な指輪だね。あんたどういうセンスしてんのさ?」

「ホントに口が悪い婆ちゃんだな」

「あんた痩せてるんだからすぐ抜けそうだけどね」

 軟膏のようなものをすり込んで引っ張るが抜けない。

「痛いよ婆ちゃん。もってやさしくしてくれよ」

「何か光ってないか奥で?」

 老婆は魔力の掛かったルーペを出して指輪を良く見る。

「何?どういうことだこれは?吸ってるよ。指輪があんたの生気を吸ってるよ凄い勢いで。信じられないよ。これは大魔王の呪いの指輪だよ」

 トマスの顔を見て

「なんであんた生きてるんだい?」

「生きてちゃ駄目なのか俺は?」

 急に腹を押さえるトマス。

「あ、ちょっとお婆ちゃんトイレを貸してくれないか?」

「そこのドアを開けて廊下を突き当ったら右にあるよ」

 慌ててドアを開けて走ってゆく。

 老婆は下を向き、冷汗が出て来る。何か変だ。とんでもないものを目の当たりにしているような気がする。

 呪いの指輪は生気を吸って勇者をスケルトンにした。

 スケルトンが今の男に指輪を付けたのだとするとあの男は勇者?いや違う。それはおかしい。呪いの指輪を付けて生きていられる勇者はいない。

 ドアを開けてトマスが入ってくる。

「どうもお騒がせしましたお婆ちゃん。俺お腹が弱くて」

「お腹?ちょっとあんたお腹を見せてもらえるかい?」

「い、いやそれは恥ずかしいよお婆ちゃん」

「いいから見せとくれよこの婆に」

 服を上げると、トマスの腹には臍が無い。

 老婆は驚いて椅子からひっくり返る。

「お前がジェドだったのか」


 トマスは後ろに倒れた老婆を心配して

「大丈夫かお婆ちゃん?」

 トマスは老婆を起こしてやろうと手を差し伸べると、老婆は頭を横に振って拒絶する。

「トイレから出たら俺ちゃんと手を洗ってるから大丈夫だって」

「いいから一人で立てるよ。この婆を舐めるんじゃないよ」

 強がって老婆は倒れた椅子を元に戻すと、そこに座った。

「いてて、腰をやられたよ」

「それでお婆ちゃん。俺の指輪は抜けるんだろうか?」

「何言ってんだい。馬鹿を言っちゃあいけないよ。それを取ったら死んじまうよ」

「指輪取ったくらいで俺は死んでしまうのか?」

「あんたじゃないよ。私達人類の事を言ってるんだよ」

「もうわけがわからない婆ちゃんだな。俺相談料は払わないからな」

「いいよ、サービスしとくから。だからいいかい。絶対指輪を取ったらいけないよ。お婆ちゃんとの約束だよ。それと昨日ここに来た女はあんたの知り合いかい?」

「誰?」

「魔族の手を付けた、能天気そうな女だよ」

「ああプリシラさんのことね」

「あの女に、婆から重要な話があるからすぐここに来るように言っとくれ。聞かないと世界が終わるかもしれないとね」

「いちいち大げさな婆さんだな。分かったよ伝えるから」

 トマスが店から出ていくと、頭を抱える老婆。

「まったくこの世界はどうなってしまうんだい」


 数刻後にプリシラが店にやって来る。

「こんにちはお婆ちゃん。私に用があるんだって?」

「なんでガキ共も一緒に来てるんだい?」

「3人とも買い出しを手伝ってくれると言うので、その途中です」

「まあいいや。お前らも良く聞きなよ」

 老婆はトマスがジェドだという事を話した。

「あの兄ちゃんが大魔王を倒した?まさか俺信じられないよ」

「大魔王をトイレと間違えてかけちゃったとか?」

 守がしょーもないことを言う。

「お兄さんだって好きでやってる訳ではないんですから、からかうのはやめて下さい守くん」

「何言ってんだい。ホントならあの呪いの指輪で奴はとっくに死んでるんだよ。あの程度で済んでいるのが奇跡なんだよ。臍が無いのも本当だったし、あいつがジェドだっていうのは間違いないんだからね。あんたらもっと緊張感をもちな。そして絶対にあの男に指輪を外させるんじゃないよ。わかったね」


 店を出て買い出しから帰った後、村長にもその話をして、いつものように夕飯になった。

 皆が指輪とトマスを交互に見つめる。

「あれ?俺の顔になにかついてる?みんなで俺を見てどうしたんだ?あっ腹が。食事中にちょっとごめんなさい」

 走ってどこかに行ってしまう。

 老婆の言っている事は真実味があるのだが、何故か皆、トマスがジェドだとは想像がつかないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る