第56話 皆殺しのジェド
プリシラは、とある相談をする為に子供達が昨日行ったというシャーマンの店に入った。
「ねえお婆さん爪切り無いかな?」
「うちを金物屋かなにかと間違えてるね。お嬢ちゃん」
「切るじゃなくても削るでもいいんです。シャーマンの知恵袋的な何かアドバイスないかな?」
右手を出して老婆に見せる。手袋をした右手から爪だけ飛び出している。
「随分黒い爪だね。何か塗ってるのかいこれは?」
「まあそうなんだけど、この爪を切れるものに心当たりは無いですかお婆ちゃん?」
「無い事はないけど、高いよ値段が」
「えっ。お幾らなんですか?」
老婆はプリシラの耳元で囁く。
「ああ、無理ですね。それじゃあいいです」
店を出ようとすると
「ちょっと待ちな、お嬢ちゃん。私の頼みを聞いてくれたらタダでもいいよ」
「え?ほんとうですかお婆ちゃん」
床にあった金庫をカウンターの上に置く。
「この開かずの金庫が開けられたら爪の事を聞いてやってもいいよ」
プリシラは色んな方向から金庫を覗き込んで見てみる。
「この金庫はどこにも鍵穴も、ダイヤルも無いようなんですけど?」
「魔法だよ。自分で魔法の鍵かけて解き方が分からなくなったんだよ」
「お婆ちゃんすごいね。魔法が使えるんだ?」
「そうさ。私は勇者パーティだったこともあるんだよ。私はね、ホントはシャーマンの家系ではないんだ。親がいない一人だった私を不憫に思ったシャーマン一族のおババ様達が面倒を見てくれたんだ。本当の娘の様に可愛がってくれてね。色んなことを教えてもらったんだよ。私もそうだが、お前も訳アリなんだろ?その手は魔族のものだ。しかも高位のとても強い魔族の手だよ」
「え?ばれてたの?」
「当たり前だよ。この婆を舐めるんじゃないよ」
老婆はプリシラの魔族の手をじっと見る。
「それはそうと、その手で金庫を開けられそうかい?別に金庫は壊してもいいんだ。でも中身は絶対壊さないでおくれ」
「うーん、私にできるかな?」
右手を金庫に置いてみる。三重の魔法陣が浮かび上がってくる。プリシラが唸ると、三重の魔法陣がグルグル左右に回りだす。
「二重なら何とか解けそうだけど、私には無理です壊します」
プリシラが右腕に魔力を込めると、魔法陣が消し飛んだ。
「ああやった。あんた凄いねえ。もう私が死ぬまで開かないと思ってたよ」
金庫の蓋を開けると、大きな宝石や古い書物等、貴重品が入っていた。
「あー右手が痺れてる。もう今日は魔法が使えないわ」
プリシラは自分の右手を振った。
「それでお婆ちゃん?爪の切り方は?」
「あんたも馬鹿だねえ。そんなの自分で調整できるんだよ」
「え?嘘」
「人間の手と同じだと思ってるから気が付かないんだよ」
「あれ短くなった?長く、できるわこの爪」
がっくり肩を落とすプリシラ。
「こんな簡単な事にずっと悩んでたなんて」
「しょうがないねえ。大手柄だったから、もう一つくらい何かタダで答えてやるよ嬢ちゃん」
「別に特にないんだけど。もうこんな機会もないだろうし、ちょっと時間を下さい」
暫く考えて「ああそうだ、昨日村長に聞いたんだけと、大魔王を倒したのが誰か知ってますか?
何故か分からないが老婆は顔が引きつり
「ちょっと怖い話だけど、大丈夫かい?」
「昨日の子供達みたいに怖がらせるつもりですか?」
「ああ?昨日のガキ共は知り合いなのかい?」
「まあそうですね。家族みたいなものです」
「帝都の北の山岳地帯にバーサーカーの村があった。
バーサーカーの若きリーダー、エドは村の外の娘リディに一目惚れをし嫁にもらった。
子を授かると、村の長老に報告に行き、名を決めてもらうのがこの村のしきたりだった。
盲目の長老は不思議な能力があり妊婦のお腹を触って性別を当て、名を決定した。
長老は村の何千もの子供の性別をお腹に触れ当てて来たが今まで外れた事は無かった。
懐妊したリディはエドと共に、長老の所にお腹の子を触ってもらいに行った。
リディのお腹の子供は、女の子なのでシルフィと名付けられた。
ところがリディのお腹が膨らんで来たころ、もう一度長老にお腹を触ってもらうと
長老は、お腹の子は男の子でジェドだと言い出した。
長老が間違えるはずがない、夫婦は、きっと双子なのだという結論に至った。
その頃からリディは食欲旺盛でよく食べるようになった。
エドはきっと元気で丈夫な子供が生まれてくるのだろうと期待した。
リディは一日中食べ続けるようになっていたが、何故が体は痩せて行った。
お腹は普通の妊婦より大きくなっていった。
何か普通ではないと思ったエドは長老にリディのお腹を見せに行った。
長老はお腹に触れると、怒り出し、摂理に反している、お腹の子を殺せと言った。
エドは驚きリディを長老から引き離し家に連れ戻した。
リディは一か月後、食べている最中に白目を剝いてそのまま亡くなってしまった。
エドは悲しみ、リディのそばから離れる事が出来なかった。
その家の使用人がエドを慰めようと部屋に入った時、リディの大きなお腹が破裂して何かが出て来た。
子供の足だった、二歳児ぐらいの幼児がお腹を蹴り破って出て来て、リディを食べ始めた。
使用人はあまりの事に絶句し動けなかったが、エドは、長老の言っていた事は正しいとその時分かった。
この化け物を殺さなければならないと思い、剣を持ち、幼児に斬りかかった。
信じられない事に斬られた幼児にはかすり傷も付かなかった。
敵だと認識した幼児は、エドに飛び掛かった。
幼児はエドの顔面にパンチをした。
エドの顔に穴が開き、即死だった。
そのとき幼児の体を見た使用人は、幼児の腹にへその緒どころかへそが無いのがはっきり見えた。
元々いた胎児は殺され、リディの体には化け物が宿り成長していたのだ。
使用人はその場から逃げた、家を出てそのまま村を出で命からがら山を下りた。
村人を平らげたジェドは急成長して一か月程で成人したらしい。
その後、村は廃墟と化した。
食べ物が無くなり、山から下りたジェドの視界に入った者は全て殺された。
ジェドが通った跡もそれで分かった。
恐ろしい化け物だったが、大魔王との邂逅は人類にとって僥倖だったろう。
大魔王は触手が全て千切れ、体中穴だらけになった状態で発見された。
その後ジェドはどこかに消えた」
固唾をのんで聞いていたプリシラは「そんな強いのに何で消えたんだろうね?大魔王より強いのなら誰かに倒される事も無いんだし」
「それは私にも分からないよ。だけどそんな奴が今も生きていたら、もうこの世界は終わってるよ」
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