第55話 大魔王の呪いの指輪
トマスを仲間に入れた一同は、さらに西に50km行った所にあるシャーマンの町に入る。帝都からは東に40kmの位置にある。
街並みを一望してみると、この町はまだ魔族の被害は無いようだった。
ここは熱く乾燥していて森がなく木も少ないので、狩りが出来そうもない。勇者はがっかりした。
近くに宝石鉱床があり、この町は宝飾品を扱う店が多かった。
「なあシャーマンて何だ?」
「呪術や占いをしている人達だが、ここのシャーマンは代々口伝で歴史を伝えていて、昔の事をよく知っているらしい」
「歴史には興味ないけど、この大陸の未来を占ってもらうのはいいかもな」
勇者、守、小夜の3人は、商店街をぶらぶらと歩いていた。それっぽい占いの看板がある建物を見つけたので暇つぶしに入ってみることにした。店内は一見見ただけでは良く分からない商品が陳列されていて、水晶を置いたカウンターを挟んで老婆が座っていた。3人は商品を手に取っては色んな角度から見て、置いて、また違う商品を取ってと繰り返していた。
「ちょっとあんたら。ここはガキの遊び場じゃあ無いんだよ。買わないんだったら帰っておくれ」
「いいじゃないか見てても。客も俺たち以外いないんだし」
小夜は勇者の方を見て
「そういえば勇者くん。今日は食事の材料当番ではないんですか?」
「そうだっけ?でも時間はまだあるから大丈夫だと思うぞ」
「俺は昨日だったから、今日は勇者だよな」
それを聞いた老婆は「ちょっと、あんたなんで勇者なんて呼ばれてるんだい?」
「俺の名前だからだけど」
「随分御大層な名前を付けてもらったもんだね」
「名前負けはしてないと思うぞ。多分」
「勇者といえばとても怖い話を私は知っているんだけど聞いてくかい?」
「えっ?聞きたくないです」
老婆は怖い話をして子供達を店から追い出そうと考えた。
「勇者と魔族が戦っていた時代に大魔王というとんでもなく強い魔族がいたんだ」
「それはもう知ってるし、怖い話は聞きたくないんだけど」
「大魔王を倒せるのは勇者しかいないから人間達の期待は高まっていった。ところが勇者は一人、また一人と消えていった。魔族と戦って死んだわけでもなく、大魔王に戦いを挑んだわけでもなく、突然消えていった。何でかわかるかいガキ共?」
「さあ」
「そう当時も何故勇者が消えていくのか皆原因が分からなかったんだ。しかし、ついに勇者パーティの一人が目撃する。闇に紛れて勇者に近づき、寝ている勇者の人差し指に指輪をはめ込むスケルトンの姿を。魔族の殺気に勇者は気づく事ができるが、ただ指輪をはめにくるスケルトンを気づくことはできない。指輪をはめられた勇者は苦しみだし、指輪に生気を吸い取られていく。指輪を外そうとしても全く外れず、指を斬り落とそうとすれば指から腕が金属化する魔法が発動する。たまらず勇者は外に飛び出し、苦しみ抜いた挙句に指輪に生気を全て吸い取られて人知れず死んでしまう。死んだ勇者は指輪の魔法でスケルトン化し、また新たな勇者を探して彷徨い続ける。元のスケルトンは魔法が解けてただの白骨となる。こうして勇者は指輪の呪いで次々と骨にされた。その指輪は大魔王の呪いの指輪と言われた。勇者を消す為に大魔王が作ったと当時は噂された。しかしあの知能の低い大魔王がこの指輪を作ったとは私は思えない。今は違う者が指輪を作ったという説が有力だ」
老婆は勇者を指さし
「お前もスケルトンには気をつけな」
勇者を見ると、顔が真っ青で震えている。
「次のスケルトンは俺なのか婆ちゃん?」
「そうだね。今晩あたりが危ないね」
「それは本物の勇者の話だろ。お前は弱いし名前が勇者なだけだから大丈夫だって」と守が言った。
「でも、お前らが俺の事を勇者だって言ってるのをスケルトンが聞いてるかもしれないだろ」
頭を抱える勇者。
まさか、こんなにビビるとは思わなかったよ。なんかちょっと可哀そうな事をしたね。
「私はもう何十年もスケルトンを見ていないから大丈夫だよ小僧」
「え?婆ちゃんは昔、見たことあるのか?」
「ああ、しょっちゅうその辺で見かけていたよ。スケルトンによって元の勇者の個性がでていたね。昼間は楽器を弾いてたり、本を読んだり、何かを食べては全部こぼしていたスケルトンもいたね。最近はもう見ていないよ。だから安心しな小僧」
勇者は店を出て周りをキョロキョロし出す。
「何やってるんだ勇者?スケルトンが指輪をはめに来るのは寝てる時だって婆ちゃんが言ってたろ」
「そうは言ってもあんな話を聞いてしまったら俺はもう普通に歩いてはいられない。スケルトンがいたら教えろよ守」
「ここは宝石が名産らしいから、呪いの指輪もそこら中で売ってるんじゃないか勇者よ」
足が震えだす勇者。
それを見てにやける守。ここまで弱気な勇者を今まで見たことがないので守は楽しんでいた。
「ちょっと守くん。勇者くんが怯えるので、もうこの話は止めて下さい」
勇者は今日の食材当番だったが、一人で行くのが怖いので市場の買い出しに二人を付き合わせた。
そしてトマスが町はずれの小川の近くに設置した簡易調理場に、頼まれた材料を持って行った。
鍋のスープの味見をしていたトマスは「やあ君たち今日は三人で買い物に行ってたのかい?」
「いや、俺は当番じゃないのに勇者がビビりだから付き合う羽目になってしまったんだよ」
「スパイスの香りがするな。兄ちゃんが来てから俺は飯時が楽しみでしょうがないんだ」
先程の指輪の話はすっかり忘れて呑気に勇者が言った。
「まったく一つ貸しだぞ勇者よ」
「いい匂いです。私はトマスさんにお料理を教わりたいです」
「ああっ。腹が。君たち鍋を見ててもらえるか?」
トマスは走ってどこかへ行った。
「またお花を摘みに行ったのか兄ちゃんは?」
「なんでこんなに頻繁なんだ?兄ちゃんの腹の中には何か悪い虫でも住んでるんじゃないのか?」
トマスが帰ってくる。
「いや君たち悪いね」
「あの。いつも思うんだけど兄ちゃんは手を洗ってるのか?」
勇者はトマスの手を見ると
「うわっ指輪がある」
トマスの左手の薬指に指輪がしてある。
トマスは恥ずかしそうに手を隠す。
「勇者くん、いい加減にして下さい。あれは結婚指輪ですよ」
「えっそうなのか兄ちゃん?結婚してたの?呪いの指輪じゃないの?」
「いや、まあそんな事はどうでもいいじゃないか。料理を手伝ってくれないか小夜ちゃん」
「はいお兄さん」
料理が完成すると、プリシラ、村長も来て、皆で夕食になる。
シャーマンの店で老婆に聞いたスケルトンの話で子供達はまだ盛り上がっていた。
それを聞いた村長は「ああ、勇者には悪いがそれは本当の話だ」
「嘘だろ」力が抜けていく勇者。
「全ての勇者が消えたと言われているが、実際は皇帝陛下が最後の勇者だという事はお前達も知っているよな?陛下がお住まいになっている帝都の城の前にスケルトンが毎日来ていたという事だ。夜間になるとどこからともなく現れ、衛兵に追いかけ回されバラバラに砕かれた。しかし指輪の力で何度でも復活し、何度も城にやって来た。警備が厳しすぎて入ることは出来ないので、そのうち城には来なくなった。それからそのスケルトンを見た者はいない。もう何十年も前の話だ」
話を聞いていたプリシラは「私はいつも疑問に思ってることがあるんだけど、勇者がいなくなった後、大魔王は誰が倒したの?勇者以外で誰が大魔王を倒せるの?」
「それは分からん。人間だったのか、魔族だったのかも分からない。何故なら見た者がいないのだ。大魔王の亡骸は無残なものだった。触手は全て千切れて、体は至る所に穴が開いていた」
食事が終わり、夜も更けそれぞれの簡易テントに戻って行った。
スケルトンの恐怖に取りつかれた勇者は、小夜と守を自分のテントに呼び出した。
「おい。俺を真ん中にして川の字で寝てくれ。頼む」
「今日だけだぞ」
そして狭いテントに三人並んで寝ると
「二人とも俺の手をしっかり握っていてくれ」
守は起き上がり「俺の手は握ってもいいが、小夜ちんの手は握るな勇者」
「今日だけだから守頼む」
「お前は一体どうしてしまったのだ勇者よ?」
特に何事もなく次の日の朝になった。
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