第53話 ドゲムの怒り
寝台の上で目を覚ましたドゲムは
「ああ。そうだったな。アレンに体を強化するように頼んで全てを任せていたのだ。どうやら失敗した訳ではないらしい」
寝台から起き上がると、地面がいつもより遠く感じる。
「私は背が高くなったのだろうか?どんな見た目なのか鏡を見なくてはなるまい」
大きな鏡がある二階のクローゼットルームに歩いて行く。鏡の前に立つと思った通りドゲムの黒いガスの体が1.5倍程大きくなっている。
そして自分の顔を見て驚くドゲム。
「なんだこれは?」
二つの光るつぶらな瞳の下にニッコリ微笑む光る口が付いていた。
「何で私は笑っているのだ?」
アレンよ。どうしてこのような重要な事を施術前に言ってくれなかったのだ?
家の中を探すがアレンはもういないようだ。頭を抱えるドゲム。
いや、もうどうでもいいのだ見た目など。法衣も必要ない。
魔王城に入ると玉座に座ったヴァシャールが上を向いて寝ていた。手元には火酒が置いてあった。
「こいつは上級魔族の傀儡だろうな」
ある決意を胸に会議室に向かうドゲム。
「今は会議中でゲス。お帰り下さいでゲス」という煩いゴブリンを無視して会議室の扉を開けるドゲム。
広い会議室。コの字に並べた机を囲んで上級魔族が座っている。
中心に居た魔族はドゲムの姿を見ると
「お前は魔王を解任されたのだドゲムよ。部外者は入らないでくれたまえ」
ドゲムの顔を見ると、議長は怒り出して
「何が可笑しいのだお前は?」
「いや別に笑っているわけではないのだが」
「法衣はどうしたのだドゲム?一体お前の体はどうなっているのだ?」
ドゲムの昔の姿を知っている上級魔族が
「この変態は魔族の体を捨ててガス体になったのですよ議長」
皆が笑う。
「私は今も魔王だ。お前らが勝手に決めた事など認められない」
「魔族院で決めたことは絶対だ。お前は魔王を解任されたのだ」
何かを閃いた議長は手のひらをポンと叩く。
「それでは解任されたドゲムに新しい役職を与えよう」
「役職?」
「大魔王の役職だ。主な仕事は火酒を醸造して皆に振舞う事だ。魔界を動かすことは私達に任せて火酒を造ってパーティの準備でもしてくれドゲム」
皆が笑う。
「さあ、この部屋から出てけドゲム」
議長は犬を追い払うように手をシっとした。
ドゲムは慎重な魔族だった。上級魔族の機嫌を損ねて反発されるのを恐れて今まで何も強く言う事が出来なかった。しかし結果的にそれが上級魔族をつけあがらせることになった。
「調子に乗り過ぎたな三下魔族共」
怒りが最高潮に達したドゲムのガス体の一部が硬質化し、鞭の様な物が何本も飛び出した。それが議長の体を一瞬で貫く。即死だったが先の尖った先端を抜いては刺すを繰り返す。
「これは尊敬する大魔王様の触手をイメージして武器にしたものだ」
ドゲムなど大した事は無いと思っている上級魔族が、ドゲムに襲い掛かってくる。複数の魔法に、剣技が重なりドゲムの体が大爆発する。会議室の椅子も机も全て粉々に吹っ飛ぶ。しかしドゲムはなんともない。
「このような会議室で使う技では無いな。目が覚めてなんとなくわかっていたが、お前達が何をやっても私に勝てない気がしていた」
何匹かの上級魔族が継続してドゲムを攻撃するが、ドゲムの触手で貫かれ即死する。
「まだ私に歯向かう愚か者はいるのかな?」
その場が静かになる。
「それでは上級魔族の諸君。人間界を侵攻しようか。お前達上級魔族が先兵だ。今まで怠けていた分働いてもらう。私は直ぐ後方でお前達の活躍を見ていよう。逃げたりさぼったりしたら私がお前達を即殺す。大魔王ドゲム様がこの大陸を支配するのだよ」
謁見室に戻ったドゲムは、寝ていたヴァシャールを起こし自分が大魔王となった事を伝える。ヴァシャールは酩酊状態で良くわかっていなかった。レーザーを無くしてしまった気まずさと、もうヴァシャールは脅威ではないとドゲムは思ったので、魔王城から開放してやった。火酒の樽を両脇に抱えて、城を出たヴァシャールはフラフラとどこかに飛んで行った。
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