第51話 炎の拷問

 興がそがれたドゲムは

「何だつまらぬ人間よ。お前との取引は終わったはずだが?」

「俺はお前のお陰で拷問地獄を味わっていた。文字どおり一矢報いたくてな」

 自分の背中に隠していたクロスボウを構えドゲムに向ける。

 矢には炎が灯っている。

「やれやれプリシラ姫。あの人間に教えてやれ。そんなもので魔王ドゲム様は倒せないとな」

「これは久遠の炎と言うらしい」

 姫の動きが止まる。

「好事家の富豪が魔王から高値で買ったと言っていた。この炎は高位魔族も倒せると聞いた」

「止めろダルトン」ドゲムが怯んでいるようだ。

「これを喰らえドゲム」

 発射した矢がドゲムの法衣に命中すると炎が服に広がって行く。

 怯える振りをしていたドゲムだったが、こらえきれず笑いだした。

「ファザリスと戦うつもりだった私が、久遠の炎の対策をしていないと思ったか?この法衣には効かぬのだ。だがダルトンよ良く考えたな。お前のお陰でわたしもとても良い事を考えたぞ」

 ドゲムは興奮している。

「この魔王ドゲムに弓を引いた罰として、お前に真の生き地獄を与えよう」

 ドゲムが右手を上げると、法衣の炎がダルトンに飛んで行き、久遠の炎がダルトンに燃え移る。


 ダルトンは暴れ出す「熱い、熱い。誰か消してくれ早く。熱い」

 半狂乱のダルトンは森の中に消えていく。


「不死身のダルトンは久遠の炎で焼かれ続ける。いつまでも、いつまでも。これは素晴らしい拷問だ」

 ドゲムは狂喜している。


 二人のやり取りの間、剣の間合いまでドゲムに接近したプリシラは、足の踏み込みと同時に鞘から剣を抜き、右腕の全魔力を剣に込めて逆袈裟でドゲムを斬る。ドゲムの法衣は千切れ飛び、ドゲムを構成している濃いガスのようなものは半分以上消し飛ぶ。

「な、んだ?」

 ドゲムの半分以下になった黒いガス体が空中にうねうねと動いている。

「これがドゲムの体?」

 しかし半分以下になったガスは、だんだんと増えていき、また元の形に戻ろうとしていた。

「まさか、お前がファザリスの右手を持っているとはな。これでファザリスが弱くなった理由もようやく分かったぞ。だがこれくらいで私は死なない」

 プリシラは力が抜ける。右腕はもう動かない。

 私が出来るのはここまでなのか?

 すると久遠の炎で火だるまになったダルトンがドゲムの後ろに現れ、抱き着く。

「俺は、一矢報いる。離さねえ」

 ドゲムのガス体が燃え上がる


「やめろダルトン」

 今度は本当に慌てているようだ。

「ヘルファイア」

 ダルトンの体が一瞬で炭になる。ドゲムの燃える黒いガス体から脱出するため緑の球体が飛び出してくる

「あれは何だ?」

 球体の表面は緑の皮が継ぎはぎに張ってあり、前面の皮は破れていて、球体の中はらせん状に臓器が連なっている。その間に、指や骨、肉の破片が詰まっている。中心に行くにつれ少しずつ凹んでいて真ん中で何かが鼓動しているグロテスクな物体だった。


「私の、私の本体を見た者はお前がはじめてだ。私は初めからガス体だった訳ではない。自分の体を実験し弄んでいるうちにこのような体になったのだ」

 緑の本体から黒いガスが少しずつ出て来て本体を覆ってきている。


「スナミよ。奴は弱っているのか?」

「はい。そのようです。ガスで本体を覆う前がチャンスかもしれません。あの緑の球体の真ん中にある臓器の部分を狙って下さい」

「守、シールドはいけるのか?」

「後数回が限界だと思う」

「勇者と小夜にかけてくれ。役に立たない我々は後ろに下がろう」

 シールドをかけられた勇者と小夜がドゲムに向かって走る。

 勇者は雷魔法を真ん中の鼓動している部分を狙って何度も落とす。

 ドゲムのガスが出るのが止まる。小夜は弓を引いて真ん中を狙って撃つ。つい力が入り矢にヒールが掛かる。ドゲムの本体に放った矢が刺さる。

「何やってんだ小夜。ヒール矢にしたら駄目だろ」

 ドゲムのガスがうねうねと形が統一できない。

「あれ?効いてるのか?」

「なんだ?私のガス体が制御できない」

「よし。これで畳みかけろ」雷とヒール矢をしつこくドゲムに浴びせる。

 守は前に走って行く。

「お姉さんが前に出過ぎだ。あの距離は危険だ」

「ガキ共め調子に乗るな。ヘルファイア」

 ドゲムの周りを囲んで炎の柱が上がる。プリシラは右手を咄嗟に前に出すと炎の壁に弾かれる。

「あっつい」

 そこに守のシールドが掛かる。ヘルファイアの獄炎柱はしばらく上がり続け、それが消えた時にドゲムの姿は消えていた。

「居ないぞ。ドゲムは逃げたのか?」

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