第50話 ドゲムと姫

 60匹の中級魔族に攻め込まれて、犠牲者が一人だったのは奇跡だと言って、村長は張りつめていた緊張を解いた。


「とくにスナミの眼と勇者の力が勝利に大きく貢献した。ここにいた誰かが欠けていても、被害はもっと多くなっていただろう」


 簡易的な墓を作り、村で戦った者達はそこに集まって手を合わせていた。

「これからどうするんだ村長?」

 村長は遠くを見て暫く考えていた。

「スナミよ。どうしたらいいと思う?」

「すぐに村から離れた方がいいでしょう。ドゲム様がここにやって来ます」

「そのドゲムというのは何者なんだ?」

「魔王ファザリスの参謀の特級魔族です」

「そうか。それは我々にはどうにもならんな。よし、一旦ここを離れて町に向かうとするか。隠れて魔族の出方を窺うとしよう」

 必要な物を荷車に乗せ、それを村の若者が引いて皆が村から出ていく。

「もう日が暮れるな。スナミよ、ドゲムはいつ頃村に到着すると思う?」

「明日の朝には着くのではないかと思います」

「ではその前に我々は町に着かなくてはならないな」

 みな疲れていて、足取りは重く移動には時間が掛かった。

 辺りも暗くなり、一同は道から少し外れた森の方に移動して、夕食を取ることにした。

 持ってきた保存食を分けて食べたが、守は「これじゃあ全然腹の足しにならないな」

「お前太ってたのにすぐ元に戻ったな」

「俺のシールド魔法はカロリー消費が激しいんだよ」

「ダイエットしなくても痩せられるなんて凄い能力だね守くん」

「お姉さん。俺はダイエットする為にシールド出してるわけじゃないんだよ。みんなを助けるためにシールド出してるんだから。でも、もっと食わないともうシールドが出せないかもしれないな」


 それを聞いた勇者は「スナミ姉ちゃん。俺と一緒に来てくれ」

「えっ?スナミさんが行くなら俺も一緒に行ってやろうか勇者?」

「いや守は休んでろよ。肉をたっぷり獲って来てやるから」

 スナミと勇者は森の中に入って行く。

「俺も少しは夜目が利くんだけど、姉ちゃんの能力で獲物の正確な位置を教えてくれないか?」

「わかりました勇者くん」

「しかし、勇者君はあれだけ一人で戦って動き回ってまだ元気があるのは凄くない?」

「私のヒールの腕がいいからですよお姉さん」

 獲物を何匹も手に抱え、二人が森の中から帰って来た。

 肉を捌き、思いがけず焼肉パーティになるのだった。

 元気を取り戻した一同は再び町に向かって歩き出す。ラレソン村との分かれ道に到着しあと町まで半分の距離に来た。

 スナミちゃん何か浮かない顔をしているけどどうしたの?

「ああ姫様、これは言おうかどうか迷っていたのですが、村を出て少しした時から一定距離を取って私達をずっと付けて来ている人達がいます」

「え?なんで早く言わないの?」

「軽装ですし、武器を携帯していないです。もしかしたら行き先が一緒なのかも。私達を追い抜いて町の方に行ってしまった人もいます」

「でも休憩していた私たちの前に姿を現さなかったのは怪しいわね」

 一応プリシラは村長に言いに行くが、大した脅威ではないと一蹴された。

 夜が明ける少し前には町に到着できそうだ。


 町が見えて来た所で、スナミが「あっ」と言った。目の前に空中から誰かが降りて来た。ドゲムと一人の人間が目の前に立っている。

「おやプリシラ姫。生きておられたのですか?スナミも一緒なのか。いつも姫を守ってご苦労だな」

 ドゲムはとても嬉しそうだ。


 アレンがプリシラを指さす。

「ドゲムさん。あの娘がそうなんですか?」

「そうだ。お前の会いたがっていたロランの娘だ」

 アレンはプリシラの方に何歩か近づいて「これが彼の娘なんですか」

 プリシラは突然の事に体が固まって動けない。何故人間がドゲムと一緒に行動している?空から降りて来た?彼は人間なのか?

 アレンはプリシラの胴あたりを目を見開いて見る。娘には印が無いようだ。これはただの人間だろう。

「ドゲムさん。私の用事は終わりました。後はご自由に」

 アレンは町の方に歩いていく。


「プリシラ姫以外は用は無いが、手下を皆殺しにした人間達にはお返しをしておかなければな」

 嫌な予感がした守は皆にシールドを張る。


 複数の黒紫レーザーがドゲムの手から前方に飛んでいく。命中率は良くないようだ。ほとんど人に当たっていない。

「どうだ?このヴァシャールから奪ったレーザーは驚いたか?」

「ヴァシャール様はどうされたのですか?」

「奴は牢に繋がれ飲んだくれている。私の部下になれば解放してやるというのに頑固な奴よ」

「ちょっと遊んでしまったがそろそろ本気で行くぞ」


 ドゲムは両手を前に出し「ヘルファイア」

 獄炎が地面から上がる。皆のシールドが消え失せる。勇者は踏み込んで斬ろうと思ったが、ドゲムまでは距離があり過ぎる。魔法も間に合いそうもない。

「次で終わりだが、何か言い残す事はあるかな人間の皆さん?」

 プリシラはもうこれしかないと思い「ちょっと待って。私が魔王城に行けばいいんでしょ?大人しくついて行くからこの人たちは許してあげてよドゲムさん」

「ドゲム様ではないのかね姫」

「ドゲム様お願いします。皆を許してあげて」

 そう言いながらプリシラはドゲムに少しずつ近づいていく。

ドゲムはいつもより浮かれていて、注意力が散漫だ。私の右手には気付いていないだろう。何とか剣の間合いに距離を詰めなければ。

 歩いてさらにドゲムに近づいていく。

 ドゲムは顎辺りに手を当てて「姫よ。なぜ右腕があるのだ?ファザリスに斬り落とされたはずだろ?」

 しまった。もう気づかれたか。プリシラは下を向き、冷汗が出て来る、もう踏み込んで行くべきか?どうする私?


 腰の柄に手をかけようとする。

 すると、ドゲムの横の森から声がする。

「やっと見つけたぜ旦那」

 コートの男が現れ被っていたフードを取る。あれはダルトンだ。

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