第48話 試練
帝都からオヤナ村に贈り物が届いた。大きな箱の中にはクロスボウがいくつか入っている。これはミリア姫を助けたお礼だろうか?
「陛下はもう魔族の動きを掴んでいるに違いない。魔界との距離が一番近いこの村が真っ先に侵攻されると知っていてクロスボウを送ってくれたのだ。クロスボウは村の訓練していない者でも扱える」
「こっちの箱は小夜ちゃん宛みたい」
長弓と矢が入っている
「皇帝陛下から直接のプレゼントだって。凄いね小夜ちゃん」
「何で私に?弓なんて使った事ないです」
長弓を物珍しげに見回す小夜。
「そういえば陛下の娘、第一皇女のクレア様は弓の名手だったそうだ。今は病気で寝たきりだがな」
小夜が持ってる弓を村長は見て「ちょっとわしにその弓を引かせてくれないか?」
弓の下の方を持った村長は、手を上げて弓を引こうとするが
「全然引けんわ。プリシラよ、ちょっとやってみてくれ。小夜に手本を見せるのだ」
「私は剣しか持ったことないし、この右手じゃ弓を壊してしまうかも」
「ああ、そうか」
村長は辺りを見回し「守は犬だから無理だし、勇者も弓というガラでは無いな。狩りに弓を使っている村の者に手本を頼むとしようか」
それを聞いていた勇者は「おい村長。思い込みはよくないぜ。俺だって少しくらい弓を使ったことがあるぞ」
「本当か?では勇者様のお手本を見る事にしようか」
勇者は弓を取り弦に手をかけ横を向き、頭の上の高さまで手を上げる。
「あれ?おかしいな。俺にも全然引けないわ」
無理に弦を引こうとして腕がプルプルする勇者。
それを見た小夜は「これはあのおじさんの嫌がらせです。私が怒らせたから仕返ししているのです」
「おい小夜。陛下を怒らせたとはどういうことだ?」
プリシラが経緯を話すと、村長は困り顔をして
「小夜よ不敬罪で兵士に斬られる事だってあるのだぞ。お前の向こう見ずな性格を改めないと寿命を縮めるぞ」
「あのおじさんはお姉さんを侮辱したのです。侮辱罪です」
皆の集まっている所にスナミは空中から下りてきた。
「皆さん。今のところ魔族は村に近づいてはいないようです」
「あ、スナミちゃんいいところに来た。この弓を引いてみてよ」
勇者が汗だくで引こうとしている弓を指さした。スナミは弓を渡され、それをまじまじと見る。
「いい長弓ですね。矢をもらえますか?」
矢をあてがうと、流れるような動きで、弓を引き絞る。一同驚きの声をあげる。
地面と水平になった矢が射出され、五十メートル程離れた木に命中した。
プリシラは自慢げに「このようにスナミちゃんは、ただ可愛いだけの魔族では無いんです」
「なんで姫が自慢してるんですか?昔エルフに少し教えてもらっただけです」
「凄いですスナミさん。私に弓を教えてくれませんか?」
「いいですよ小夜さん」
「しかしスナミよ。この村はもうすぐ戦場になる。お前は残ってくれるのか?」
「この村で姫と行動するように言ったのは魔王様です。姫が残るならもちろん私もこの村を守るためにお手伝いさせていただきます」
「ええ?本当にパパがそんなこと言ったの?」
「はい」
村長はそれを聞いて
「という事はこの隠れ里をファザリスは最初から知っていたのだ。ファザリスが敵だったらもうとっくにこの村は無かったに違いない」
それから数日が経ち
守は村の近くの草原でうつ伏せになり頬杖をして、丘の上で小夜に弓を教えるスナミをぼーっと眺めていた。
軽装に帝国の胴鎧だけ身に着けたシンペーが守の元にやって来た。
「おい守。スナミさんはお前にはまだ早いぞ」
守は寝たまま後ろを見ると「シンペー兄ちゃんか。弓が上手くなったな小夜ちん」
「教える人が上手いんだから当然だろ」
「そうだけど、あの弓は勇者でも引けなかったんだぞ。きっと才能があるんだ」
スナミは小夜が引いた矢が飛んでいった方向を見て
「小夜さんフォームは凄く良くなってます。後は狙った所に正確に当てるだけですね」
「はいスナミさん」
小夜は張り切っているようだ。
スナミは何かに気づいたようで、急に髪を上げ、村の物見櫓の方向を見る。物見櫓は魔族の格好の的になるので、スナミは村長に言って、村人を待機させないようにした。
その代わりにスナミが魔族を監視することになった。
遠くの距離を千里眼で見通していく。
「魔族が集まってきている。ハイオーク、それにミノタウロス。村から約1kmの地点」
シンペーの方を向き大きな声で
「村の人達の避難をお願いします。シンペーさん」
「承知しましたスナミさん」
シンペーは村の方に走っていく。
スナミさん。俺達がいる事に気づいてたのか。守はちょっと嬉しくなった。
「小夜さん。魔族が村に来ます。準備してください」
スナミは村長の家に行き、魔物が近くに集まって来ている事と、避難が開始された事を伝え、村の入口の近くの崖の上に飛んでいく。見通しの良い空から周りを確認する。
ハイオークが整列している。数は30。ミノタウロスは16だがまだ集まってる途中だ。空中を見渡して確認すると、北の方角に微かに何かが見える。スナミは目を絞ると見知ったガーゴイルだった。ドゲム様の眷属ガーゴイルがこの戦いを見届けるつもりらしい。
スナミは村の反対側の出口の方を向く。プリシラたちが馬車で帰って来た道から、荷車を引いた村人が出ていくようだ。秘密の通路らしいが、もうなりふり構っていられないとのことだ。村長と、シンペーが誘導している。
そして手前の方を見ると、村の入口の扉から50メートル程離れた所に子供達とプリシラが待機して居る。
ついに戦いが始まる。しかし子供達とプリシラ、僅かな村の若者たちだけであの巨大な魔族の群れと戦えるのか?スナミは心配になった。しかしこれは村長が考えて決断したことだ。判断が正しかったと思いたい。
崖から飛び下りたスナミはプリシラ達の居る待機地点に着地する。
「皆さん。もうすぐ魔族が集結してここを攻めて来るでしょう」
「わかったよ。スナミちゃん」
守はプリシラの腰に差している剣を見て
「お姉さん鞘から剣を抜けるようになったのか?」
「何回も練習したから大丈夫だよ守くん」
勇者は守の出た腹を叩いて「その太った体で攻撃を避けられるのか守?」
「知らないけど、俺は避けなくてもなんとかなるだろ」
スナミは凄く不安になって来る。
「ハイオーク、ミノタウロス混成部隊は50匹以上ですけど皆さん大丈夫ですか?」
そんなにいるのか?と一同驚く
「せいぜい多くても10匹ぐらいだと思ってたよ。ちょっと多すぎじゃないのスナミちゃん?」
「私に言われても困るんですけど、ハイオークですよ姫。前はヴァシャール様がまとめて倒しましたけど、あれが30いるんですよ」
以前遭遇した2メートル程の巨体の魔族をプリシラは思い出して足が震えだす。
「それに牛顔の筋骨隆々ミノタウロスですよ姫。魔界では一番のパワー系と言われています。姫の頭なんて握力で握り潰されちゃいますよ」
プリシラの顔が真っ青になる。
小夜が出てきて「スナミさん。あんまりお姉さんを怖がらせないで下さい。可哀そうです」
「あ、すみません小夜さん。姫に緊張感が無いのでつい」
そこに村長が息を切らせてやってきた。
「だいだい村の者は町に向けて出発した。後はシンペーに任せる事にしよう。プリシラよ。お前は隠れているのだ」
「え?なんでですか村長?」
「お前の右腕は切り札なのだ。子供たちに任せて、戦局に合わせて戦ってもらう」
スナミは「あっ」と言って「先程遠くに見えたのですが、ドゲム様の眷属ガーゴイルがこの戦いの様子を見に来ます。もし姫が生きているということが知られればドゲム様が姫を捕らえる為にここにやって来るでしょう。その場合は我々はもうここにはいられません」
「ドゲムに報告する前にその眷属ガーゴイルを倒すことは出来ないのスナミちゃん?」
「彼は用心深いですから恐らく無理だと思います」
「よしスナミとプリシラはわしの家に来てくれ。そこで待機だ」
村長の家に入った3人は丸テーブルの椅子に座る。プリシラは落ち着かず、貧乏ゆすりが止まらない。
「茶でも入れようか」
村長が立ち上がる。
スナミは村長の方を見て「あの子供達だけで50匹以上の魔族を倒せるのですか?」
「わからん。あの子達はゴブリンとしか戦った事は無い。しかし中級魔族程度に負けるのであれば、どこに逃げても同じだろう。これは、あの子達の試練なのだ。負けた時わしは子供達と運命を共にする」
スナミはプリシラを見て「そうです。これは姫様、あなたの試練でもあります」
「どういうことスナミちゃん?」
「魔王様は仰ってました、姫は死線を超えて強くならなくてはいけないと」
プリシラの貧乏ゆすりが止まる
「パパがそんなことを?」
スナミが上を見て、「ガーゴイルが崖上に到着しました。魔族の部隊もここに向けて進軍し始めたようです」
村長は茶を入れた湯呑が乗った盆を運びながら「こんな家の中からでも見えるのか?改めて凄い眼だな」
崖上から村の様子を窺っているドゲムの眷属ガーゴイルは
「外に出ているのはガキ共だけか?だらだらと過ごしやかって。これからこの村は地獄と化すというのに呑気なもんだぜ。おっ。家から爺さんが出て来たな。ガキ共の方に行くのか?」
歩いてきた村長は、三人の前で立ち止まる。
小夜と守をじっと見て
「二人とも。勇者を守るのが最優先だ。分かっているな?」
頷く小夜と守。
そして勇者を見る。
「勇者は敵の集団を殺す事だけを考えろ。敵の数は多い。勢いが重要だ。一気に削れ」
「わかってるよ村長」
村長は家に戻っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます