第46話 眷属の苦労

 魔王城に帰ったガーゴイルは謁見室の玉座に座っているドゲムに村であった事を伝えた。

「なに?魔法を使える人間が隠れ里に居た?」

「はい。人間界に調査に向かったガーゴイルは魔法で殺されたようです」

「それは勇者なのか?」

「いえ。空中を飛翔することはできないようです。魔法も派手さは無く、地味な感じです。恐らく魔法が使えるだけの人間だと思います」

「なるほどな」

 ドゲムは顎辺りに手を当てて

「では、その人間の村の近くに住んでいる魔族達に村を攻撃させるとしよう」

 ガーゴイルは手持ちのマップを広げる。

「近くにはミノタウロスの居住地があります。その奥が私が担当したトロール村です。ドゲム様、トロールは愚鈍で戦力にはならないと思います。ミノタウロスだけで宜しいかと」

「そうだな。しかしそれだけでは面白くない。ファザリスにボスを倒された東の反乱分子のハイオーク部隊も同時に攻めさせるとしよう。先に村を制圧した方が、その村を支配できるようにする」

「しかし、ルールを明確に設けないと同士討ちになる可能性があります」

「そうだな」

 ドゲムは考えて「では魔法使いの人間を殺した方が村を支配できるようにするというのはどうだ?複数の魔法使いがいた場合は多く殺した方が勝ちだ。これでいいだろう」

「はい」

「おそらく魔法使いが村の守りの要だ。それを殺せばあとは問題あるまい。勇者がいないのならパワー系の中級魔族でもおそらく力押しでいけるだろう。戦いの様子はお前が行って見届け、詳細を私に報告してくれ我が眷属のガーゴイル」

「はい。ドゲム様」

「その村を落したら、人間界への本格的な大侵攻を開始するとしようか。それと地図作りの完成も頼んだぞ」

「はい。それでドゲム様。お願いがあるのですが」

「なんだ?」

「文字を書くことが出来る、あのプリシラ姫の召使だったゴブリンに地図作りを手伝わさせても宜しいでしょうか?」

 ドゲムは一瞬間をおいて

「ゴブリンか。私はもうあの無能共は使わないが、お前が使えると思っているなら好きにするがいい」

「はい。ありがとうございます」


 その時ゲスールは姫の部屋で姫のペットの猫に餌をやっていた。

「姫が死んだ時、最初は引き裂いてこいつを食ってやろうと思ってたでゲスが、習慣と言うのは恐ろしいでゲスね」

 餌やりをして、しばらく猫を眺めていた後は、姫のベットの上で飛び跳ね寝転び、ぼーっとするゲスール。

「俺が姫の部屋を自由に使える事になったのは良かったでゲスが、姫がいないとなんか張り合いが無いでゲスね。部屋が広く感じるでゲス。」


 ゲスールの部屋の扉が開く。

「おい、いるかゲス野郎?地図を作るのを手伝え」

「仕事でゲスか?」

「そうだ。会議室までとっとと来い」

 部屋に入るガーゴイルとゲスール。

「お前はゴブリンの中で唯一字が書けると言っていたな?」

「そうでゲス」

「この地図の地域番号を担当したガーゴイルがこの部屋に入ってきたら、聞いた情報を書き込んで地図を完成させろ。俺は忙しいから手伝ってやれん。じゃあなゲス野郎」

 勢いよくドアを閉めてガーゴイルは出て行った。


 上級魔族は恐らく識字率百パーセントだろうが、何故ドゲム様は上級魔族を使わないのだ?いつも何もしないで美味いものを食い、文句を言うだけの魔界貴族共が。ファザリスは圧倒的な力と久遠の炎の恐怖で上級魔族に有無を言わせなかったが、魔王としての格が違い過ぎる。ドゲム様はあの集団が怖いのだ。結託して反抗されるのが。まったく俺ばかりをこき使いやがってあの野郎。


「ああそうだ。ミノタウロスに話を付けに行かなくてはな」


 ガーゴイルは半日かけて、オヤナ村から一番近いミノタウロスの居住地に到着した。空中から俯瞰して見ると、ほとんどが石造りの家であった。通りに着地すると、目の前には胡坐をかき戦斧を研いでいるミノタウロスが居た。はち切れんばかりの筋肉に圧倒されたガーゴイルは

「あの。すまないが、王の居住地を教えてもらえないだろうか?」

 ミノタウロスは指で自分の右の方向を指す。

 ガーゴイルはそんなんで分かるわけないだろ脳筋馬鹿牛が、と思ったが、指の方向を見ると巨大な石造りの建物が遠くに見えた。

「そうか。あの建物にミノタウロスの王が居るに違いない」

 低空飛行で移動すると、そこらでミノタウロスの輪が出来ていて、その中心で二匹のミノタウロスが戦斧で戦っている。


 「戦馬鹿牛め。しかしこいつらなら期待できそうだな」

大きな宮殿のような建物に到着すると、思ってたよりずっと建物が大きいことが分かった。長い柄の片刃斧を持ったミノタウロスの衛兵が入り口の両側に立っている。

「ドゲム様の使いできたものだ。通してくれ」

 一歩下がる衛兵。広い石造りの広間の奥に一回り大きなミノタウロスが金の鎧を着て玉座に座っている。玉座の周りは派手な赤いカーテンが上から垂れている。

「前に来たのとは違うガーゴイルなのか?もうドゲムが魔王に就任したということは聞いたぞ。それとも違う用事なのか?」

「王よ。人間の村を攻め落として欲しいのです。魔王様はミノタウロス族の勇猛さを他の魔族に示し大侵攻に弾みをつけたいということです」

「なるほど。最初に攻め落とした魔族がそこの人間を支配しても良いということだったな?」

「左様です」

「しかし我々は惰弱な人間など興味が無いのだ。我々が興味があるのは強い者だけだ」

 意外な返事が返って来て驚くガーゴイル。

「それでは侵攻はしないということですか王よ?」

「いや魔王の命と言うなら何匹か行かせることにしよう」

 それを聞いて安心したガーゴイルは

「ハイオークの部隊とどちらが村を支配するのに相応しいか競わせるという事です」

「魔王は我らミノタウロス族を試すと言うのか?ハイオークは何匹で編成しているのだ?」

「三十です」

「ではこちらも同じ三十の血気盛んな若者を用意するとしようか」

 お前らは全員血気盛んな馬鹿牛だろとガーゴイルは思ったが

「村の魔法使いをより多く殺した方が村を支配できます」

「人間界の村など我々には興味がないが、魔法使いを殺せばミノタウロス族の勝ちだということだな?」

「はい」

「よろしい。準備させよう」


 帰途につくガーゴイルは妙な気分だった。あの好戦的なミノタウロスも人間界には興味が無いようだ。魔王ファザリスは魔界に必要な食料、物資を帝国から受け取る条件で不可侵条約を帝国と結んだ。そして力と恐怖で魔族達をこの土地に縛り付け人間に手出しできないようにした。いつしか魔族は現状に満足するようになってしまったのかもしれない。ドゲム様は再び魔族が大陸を支配すると息巻いているが、意外と魔界の賛同者は多くないのかもしれない。

ドゲム様は上級魔族に、火酒を造る以外何も価値もない変態だと言われているのを俺は知っている。まさか眷属の俺にまで嫌われているとは思うまい。


 ガーゴイルが魔王城に戻るとドゲムの機嫌がまた悪そうだったので、今度はなんだ?と思っていると

「我が眷属のガーゴイルよ。この地図なのだが」

 ゲスールに任せていたのをすっかり忘れていた。

「何が書いてあるのかさっぱりわからぬ」

 地図を見ると今まで見たこともない文字が書いてある。

「これは一体?」

「だからゴブリンなど使うなと言ったのだ。全部お前が書き直せ、我が眷属のガーゴイルよ」

 地図を持ってゲスールの部屋へ向かい、勢いよく扉を開ける。

「おいゲス野郎、これは何語で書かれているんだ?」

 猫に餌をやっていたゲスールは「それはゴブリン語でゲス」

「そんな言語があったのか?」

「俺が考えた言語でゲス。ゴブリン王になった時に皆に教えるつもりだったでゲス」

 力の抜けたガーゴイルは

「やり直しだ。新しい地図を作るから、この地図に書いてあるゴブリン語を翻訳して俺に教えろ」

「わかったでゲス」

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