第40話 ミリアの朝

 次の日の朝、まだ夜が明ける前に皇女ミリアは目覚めた。あれは悪夢だった?いや私は現実で何かおぞましいものに囚われていたような気がする。上半身を起き上がらせると、自分が裸であることに気が付く。何故私は服を着ていない?

 床に目をやると、子供が丸まって寝ている。ここはどこだ?何故平民が一緒の部屋にいるのだ?

 どういう状況かさっぱりわからないミリアは

「ゴルドリン、いるのか?ゴルドリン」

 小さい頃からミリアの世話をしている御付きの騎士の名前を呼んでみた。

 その声で、寝ていた三人は目を覚ます。目覚めの良い小夜はミリアが起きているのに気付くと寝ぼけ眼のプリシラの腕を叩く。

「お姉さん起きて下さい」

 守は二人に任せれば大丈夫だろうと、二度寝した。

「お前達は誰だ?」

 はっきりと通る声でプリシラたちに問いかけるミリア。

「私たちは村の前で倒れているあなたを町の宿屋まで運んできたのです」

「村にいた?どうして私はそんなところに?」

 ミリアは記憶を辿ってゆく。たしか鍛冶場を視察していた私は、後ろから誰かに触られたような気がして、次は酒場のような場所にいた。

 目の前に、そうだ、下衆な魔族が居たのだ。その魔族は次の魔王になり人間を支配すると言っていた。私は陛下に伝えに行こうとしたが、動きが止められた。ネックレスを外されてそこからはよく覚えていない。

 ミリアは手を組み。

「私が何かに囚われて弱っていた時、とても暖かな光を感じたのだ。邪悪なものに思考が遮られ、思い通りに動かない体が少しずつ解けて行った。あの時私は暖かい光で誰かと繋がっていた」

 ミリアは再びプリシラたちを見て、大きな声で「あれはそなたたちではなかったか?」

 ビクッとなる二人。

「あ、はい。元に戻ってよかったです」

「やはりそうか。礼を言わねばなるまい」

 ミリアはベッドの上に立ち上がるが、裸なのを忘れている。

「ああ、服を着ないとだめです」

 そこに店の主人が入ってくる。騒々しいけどどうしたんだい君たち。

 ミリアの裸を見た主人は「ああ、娘さん起きたんだね。何か服を持ってくるよ」

 あわてて階下に下りていく。そして再び戻ってきた主人は

「すまないが、私の娘の下着と店のウェイトレスの服しかなかった」

「着れればなんでも良いのだ」

 主人は下を見たまま服を手渡す。ベッドの上で服を着始めるミリア。正座でそれを見上げるプリシラと小夜。

 主人はミリアが服を着たのを確認して、見直すと「あれ?あなたどこかで見た気がしますね」

 ニッコリ白い歯を見せたミリアは「私は帝国の第二皇女ミリアだ臣民の諸君」

 一同驚きの声を上げる。

「どうして姫様がこんなところに?というか魔王城の牢に監禁されていたのでは?」

「魔王城?なにを言っているのだ?」

 主人は下から一昨日前の新聞を持ってくる。

 それを見たミリアは「なんだこれは一体?皆の者、魔族に騙されておるぞ」

 そしてプリシラたちの方を向いてミリアは「お前達、早馬を出せ。早く私の健在を陛下に伝えるのだ」

 その場がシーンとなる

「あ、すまない。ここには帝国兵士がいないんだったな」

「兵士はどこだ」と言って部屋を出ていくミリア。

 階段を下り宿酒場の外に出てみるが、また戻ってくる。

「すまないここはどこなんだ地図を見せてくれ」


「うるさいな朝っぱらから何をやっているんだ」

 隣の部屋の客が入って来た。

「おいお前、帝国兵士はこの辺に滞在してないか?」

「俺がそうだが」

「私は第二皇女ミリアだ。直ぐに早馬を出してくれ」

 兵士は怪訝そうな顔をして「姫は魔王城だという話だが?」

「時間が無いのだ。早くしないと後でとんでもない事になるそお主」

 これは皇女ミリアだと確信した兵士は「イエスマム」

 それからの兵士の動きは慌ただしかった。

 各方面に早馬を飛ばし、村のゴルドリン、遺跡にいる皇帝陛下にもミリア姫健在の一報が届いた。


「ええっあの化け物が皇女様だったって?」

 真相を知った宿酒場の主人は驚き、そして何故が泣き崩れた。

「もう私の夢には出てこないんだね良かった」

 一人で納得すると、いつも困ったような顔をしていた主人の顔は少し明るくなった。

「今晩は君たちに私が腕に寄りをかけた料理を振舞うよ。帰るのは明日の朝でいいだろう?」

 守がもちろんと言うと、二人もまあいいかという感じになった。

 ミリアも「私にもお礼をさせて欲しい。町に行って何でも好きなものを食べてくれ。全部おごりだ」

 四人はミリアの護衛の兵士を引き連れて町を歩く。

 守は屋台を見つける度に買ってもらい、プリシラ、小夜もニッコリ顔の看板で有名な店のアイスクリームなど甘いものを買って食べた。

「ここがこの町で有名なレストランらしいな」ミリアは大魔王の触手亭を指さした。

「やっぱりここなんだね」

 四人が中に入り、席を案内され、座ると、ウェイターが注文を取りに来た。

「あれ?昨日の変な兄ちゃんはいないみたいだな」

「何でも好きなものを好きなだけ頼んでいいぞ」

 守は節操なくいろんなものを頼み、プリシラ、小夜は昨日よりランクの高い料理を数品注文するのだった。

 ミリアも何品か料理を頼み、待っているとテーブルに皿が次々置かれていった。

 皆あまりの美味さに、ひたすら食べている。

「あれ?昨日より美味くないか料理?」

「ああ口の中が幸せですー」

「今まで食べていたものが何だったのかというような味ね」

「私もいろんなものを食したが、これは本当に美味いな」

 ミリアがウェイターを呼んで、調理したシェフに礼を言いたい呼んでくれないかと言うと、厨房から昨日の挙動不審な男が現れた。

「素晴らしい料理だった。お主が作ったのか?」

「はい、すみません、いや、お褒めいただきだき、あ、ありがとうごございます」

「ん?」となるミリアだったが

「若いのに凄い腕だな、どこで修業したのだ?」

「か、各地でしゅ、修業いたしま、ま、ました」

 そして腹を押さえてトイレに駆け込む。

 ミリアは憐れむような顔をして「ここの料理人はあまり会話が得意ではないらしい。もうよいと伝えておいてくれ」

 ウェイターは頭を下げてトイレに向かって行き、ドア越しに何かを伝えている。

「俺思ったんだけど、あの兄ちゃんトイレに入った後ちゃんと手を洗ってるんだよな?」

「ちょっと守くん変な事を言わないでよ。せっかく美味しい料理を食べてるんだから」


 そして店の扉が勢いよく開き、ミリアの御付きの騎士ゴルドリンが入ってきた。

 ミリアの顔が笑顔になる「おお久しぶりだなゴルドリン」

 ゴルドリンはミリアの前に来て、跪き、号泣する。

「どうしたんだ?」

「姫良かったです生きておられて。姫本当に良かった」俺の首が繋がって本当に良かった。

 守はゴルドリンの顔をふと見ると「あ、あの時のおじさん?」

 ゴルドリンは声を裏返らせて「小僧、どうしてお前は姫がいる事を教えてくれなかったのだ?担架で運んだのはミリア様だったんだろ?」

「いや、あの。おじさん達は何かの調査で忙しそうだったし、邪魔しちゃ悪いと思ったから」

「そんなことはない。それに俺はおじさんではない」

 するとミリアが「私が悪かったのだ。視察で鍛冶場にいた時、あちこちせわしなく歩き回ってしまい、ゴルドリンは私を追いかけて疲労困憊、顔は死んでいたのだ。たまにはゴルドリンを労ってやりたくてな。近くの酒場が大人気だという事で飲んでくるように命令したのだ。私の周りには新兵しかいなくなり、その新兵もいつのまにか居なくなっていた。わたしは集中すると周りが見えなくなってしまう性質なのだ。一人になった私をさらっていくのは盗賊達も容易い事だったろう」

「姫様は何も悪くないです。酒は美味かったし、酒場にたむろしている盗賊共をぶっ飛ばしてスッキリしました。全ては盗賊共が悪いのです」

「いや、今後は私は軽はずみな行動はしないと誓おう」

「私も命を懸けて姫を守ると誓います」

「素晴らしい主従関係だね」守はがつがつ料理を食べながら適当に言った。

 その後もデザート等甘味を食べて、食事を終えた四人とゴルドリンは満足して店の外に出た。

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