第34話 魔導長距離砲ヴァシャール
魔王とスナミは皇女誘拐の真相を確かめようと魔王城に向かって飛んでいた。森と平地の景色が交互に変わり、遺跡から魔王城まで半分程の距離に来たところだった。スナミは猫耳カチューシャをして魔王城の様子を探った。
「魔王様止まってください」
「どうした?」
「魔王城の上の方が濃く見えます。1か所に強大な魔力のエネルギーが集まっています。これ以上近づくのは危険かもしれません」
「しかし、誰が誘拐の首謀者か知る必要がある。城に皇女が囚われているのなら解放しなくてはならない」
魔王はスナミの警告を無視して再び魔王城に向かって飛んでいく。スナミは不安な面持ちで魔王の後を追いかけて行った。少し移動した所でスナミは高魔力エネルギーが魔王に向かっているのが見えた。
「魔王様避けて」
高速の黒紫レーザーが魔王に直撃する。義手は消し飛び、森の中に魔王は落ちてゆく。
「あれはヴァシャール様の黒紫レーザー」
でもレーザーの大きさも威力も桁違いだ。ここまで長距離を撃つことは出来ないはず。魔王城で一体何が起こっている?
スナミは魔王が落ちて行った森に降りて行く。魔王は木立の間の土の上に仰向けで倒れた状態になっている。前面の皮、筋肉が溶け、骨と臓腑が露わになっていた。
「魔王様」
スナミはどうしていいかわからない。
「スナミよ。この傷では回復にかなりの日数が掛かるだろう。帝国が魔王城に進軍すれば、お前はもう遺跡には居られなくなる。人間と魔族の戦いが再び始まるのだ。そして人間達は圧倒的に不利だ。今後は隠れ里に行って姫と行動を共にするのだ」
「あの村に姫を連れていくように指示したのは魔王様なんですか?
「そうだ。姫は死線を超えて強くなってもらわなくてはならない。城のパーティは酷だと思ってお前には見せなかった」
「あの腕は魔王様が与えたものですか?」
「あれは私の右腕だ。姫はこの大陸の為に生き残ってもらわなくてはならない。ロランが以前言っていた事はさっぱり分からなかったが、私にも少し分かって来た事がある。この大陸の本当の脅威は魔物を操っている奴等だ。大陸ではないどこかに敵がいる。とにかく私は動けない。姫の所に行ってくれスナミ」
「魔王ファザリスに命中しました落ちていきます」
塔上の一角で、いくつものレンズが重なった長い筒を覗いている魔族がドゲムに向かって言った。
「なんてことだあの魔王ファザリスを倒したなんて。凄いじゃないか」
珍しくドゲムが感情を露にする。
「ヴァシャールさんの魔力器官を応用して長距離砲を作ってみたのですが、なかなかの出来だと自負しています」
男も満足そうだ。
「人間よ。私に仕えて大陸を支配する覇道を手伝ってくれないか?」
「忘れたんですか?私はロランの消息を知りたいだけだと言いましたよね」
「おおそうであったな」
そこに鎧を着た中級魔族が来て、ドゲムに耳打ちする。
「先程の魔導長距離砲ヴァシャールに注いだ魔力はここの魔族全ての魔力量です。魔族は皆疲れ切っていて、今敵に攻めてこられたらここは持ちません」
ドゲムは見当違いな事を言う魔族に腹が立ってきた。
「一体魔王を倒した今、誰が攻めてくるというのだ?一緒にいたスナミか?あんなの猫程度だろうが」
ドゲムは魔王になる自分がもっと寛容でなくてはならぬと思い、平静を取り戻そうとした。「よし、褒美として疲れた魔族共皆に私の自家製の火酒を振る舞おう。魔力とほぼ無縁な下級魔族共にパーティの準備をさせろ。そこで私から重大な発表もある」
火酒と聞いて魔族達は元気を取り戻した。皆ドゲムは嫌いだが、ドゲムの作った火酒は大好きだった。火酒パーティの事は暇を持て余していた遺跡の魔族達に、いち早く知らされていた。火酒パーティに誘うと魔族達は皆、直ぐに魔王城に帰って来ていた。
ドゲムは横にいた人間の男に「これから私が作った火酒パーティがあるのでお前も来てくれ。ロランの事はそこで話すことにしよう。ところでお前の名前はなんというのだ?」
「私はアレンと申します」
地下の牢の一室、ヴァシャールが特殊な拘束具で動けないようにされ壁に磔になっていた。階段から下りてきたドゲムとアレンがヴァシャールの牢の扉を開け中に入る。
牢に入って来たドゲムに気づいたヴァシャールは
「ドゲムよこれはどういうことだ?何故皇女がさらわれた?何故俺は囚われているのだ?その人間は誰なんだ?俺をおかしな装置で隅々まで調べやがって」
「おちつけヴァシャール。皇女をさらったのは人間を嗾けてこの城を攻撃させ一気に叩き潰すためだ。お前が探りに来ることはわかっていたから、この牢獄全体に強力な魔力封じの罠を張っていた。魔王ファザリスもお前と同じように牢にやって来た所を捕らえようと思っていたが、このアレンがお前の特殊なレーザー器官を応用して長距離砲を作ってくれた。レーザーの餌食となった魔王は死んだ」
「何?それは本当なのか?」
「いや、もしかしたら死んではいないかもしれない。だがもう魔王ファザリスは脅威ではない。以前の圧倒的な力は失われているからな。お前の主人は負けた。お前は私の部下になれば解放してやってもいいぞ」
ヴァシャールは不機嫌な顔になる。
その顔をニヤけながら見てドゲムは
「ああそうだ知っているか?今日の火酒パーティで私が魔王に就任するのだ」
「お前が魔王だと?」
「ファザリスがいなくなれば魔王城で代理魔王をしている私が魔王になるのは当然だろ」
ドゲムはアレンの方を向き「それでだアレン」
「なんですか?」
「このヴァシャールのレーザー器官をこのドゲムに移すことは出来ないだろうか?」
「出来ますよ。簡単です」
「おいやめろ。それは許さんぞ」
ニヤけるドゲム。
「お前にも火酒をやるからなヴァシャール。私の造った火酒が大好物だろお前は」
「火酒は持ってこい。だが俺のレーザーはやらんぞドゲム」
「まあいい。今私はとても気分がいいのだ。少し猶予をやろう」
甲高い声で笑うドゲム。
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