第30話 謎

「トンネルの終点は近い。私一人で巣を叩きに行く。もうそれしかないだろう」

 魔王は浮き上がり奥に飛んでいった。

「魔王様、私も行きます」

 スナミも飛んで後を追う。

 残された兵士達は「我々もスナミさんを追いかけるぞ」

 一人の掛け声で兵士たちがもたもた走り出す。


 そして魔王はついにトンネル終点に到着する。

 トンネル終点は一面骨だらけであった。それを出て来た魔物が何度も上から踏みつけているようで、地面は骨の欠片と粉が堆積していた。

「ここが魔物の巣?何もないではないか」

 床に堆積した骨の粉を魔法で吹き飛ばしても、地下に下りるような入口は無い。目の前は壁になっている。

「それでは魔物はどこから出てくるのだ?」

 スナミが魔王のいる所に着地する。

「トンネルの最奥は箱のように見えると言っていたなスナミ?」

「はい」

「ではこの奥の壁の中に何かが入っているのだろうか?少し離れていてくれ」

 スナミは後ろに十メートル程移動する。


 魔王は左手に最大の魔力を込める。それを壁に打ち込む。ものすごい衝撃でトンネルは地震のように揺れる。

 後ろから来ていた兵士たちはバランスを崩して尻もちをつく。

「なんだ地震か?このトンネルが崩落したら俺たち死ぬぞ」

 魔王の前の壁は傷一つ付かなかった。トンネル横の壁、下の地面にも同じように魔力を打ち込むが、少しヒビが入るくらいだった。

「この奥の壁は特に頑丈なようだな。この大陸で私が壊せぬ物は無いと思っていたが、一体誰がこのトンネルを作ったのだ?」

 後ろからヘロヘロの兵士達が息を切らせて奥に到着した。

「魔王さんそんなことしたら俺たち生き埋めで死んでしまいます」

「大丈夫だ。このトンネルは何をやっても壊れないようだ」

「しかし」

 魔王は辺りを見回して

「ここにくれば全てが分かると思っていたが、余計に分からなくなったな」

 それを聞いた兵士たちは「そんな俺たちの頑張りは無駄骨だったんですか?」

その場に崩れ落ちる。

「分からないという事が分かっただけでも一歩前進です」

 スナミが兵士たちを励まそうとする。


「敵の姿はない。少し休憩しよう」

 魔王は遠くを見つめている。

「やはり魔物は強くなってきている。いつかは魔物にこの大陸は乗っ取られるのだろうか?」

 数刻経ち。

「いつまでここにいるんですか魔王さん?もうこれ以上進めないようですが?」

「お前達はもう遺跡の野営地に戻れ。私はどこから魔物が出てくるのか確かめてから戻る。皇帝ザクスエルトが来るまでは戻ると将軍に伝えて置いてくれ。それとドラゴンは今のお前達には手に余る。トンネルの各制圧ポイントの兵士にも撤退するように伝えろ。仕切り直しだ」

「わかりました」と言って兵士たちはトンネルの最終制圧ポイントまで戻り、そこに居た雑用兵とスナミ隊二班にトンネルから撤退する旨を伝える。武器、防具を荷車の上に置いて、身軽になって一斑はトンネルを出て行った。

 魔王とスナミはさらに数刻同じ場所で過ごした。すると最奥の壁は鈍い音をだして横方向に動き出した。箱だと思われていた目の前の壁は、厚さ1メートルほどの横扉だった。その奥に縦長のスペースがありドラゴンが居た。

 ドラゴンの後ろの壁が前に迫ってきてドラゴンは前に押し出される。押し出た壁は元に戻り、扉も元の位置に閉まっていく。

「なるほどこのような仕組みになっていたのか」

 魔王は先ほどの様に頭に一撃を喰らわせてドラゴンを倒す。

「この魔王と互角に戦えるだけの魔物はまだまだ先だろうな」

 スナミは首をかしげて

「トンネルを空中から見た時、今の厚い扉の向こうは土だけだったはずなんですが、今のドラゴンが居た場所はどこなのでしょうか?」

「扉の向こうが土。間違いないのかスナミ?」

「はいトンネル以外の物はよく見通せるので間違いないです」

 魔王とスナミは、もうこれ以上は何も分からないだろうということで、トンネル入り口まで飛翔して戻った。各制圧ポイントにいた帝国兵士はもう誰もいなかった。


 その後、皇帝ザクスエルト一世が遺跡に到着し天幕で魔王と話し合いがされることになった。周りは近衛兵が取り囲み警備は厳重だった。スナミも魔王の側近という事で近くで中の様子を窺っていた。

「魔王よ久しぶりだな」

 二人は握手を交わす。

「お前は見た目が変わらないというのに私はもうこんなに姿になってしまった」

「当時は最年少勇者だったな」

「私で勇者は最後だそうだ」

 「しかし、この警備は無意味ではないか?私ぐらいしかお前を倒せるものはいない」

「これは威厳を示すためだ。形式だよ」

 皇帝は魔王を指さし

「だが魔王ファザリスよ、今のお前では私を倒せんぞ。お前の魔力は弱くなったな。右腕はどうしたのだ?」

 「右腕?」

 スナミは髪をかき上げ魔王を見る。近衛兵がスナミの動きを見て、剣に手を掛けた。

「魔王様の右腕が無い。魔力で義手を動かしていただけだ」

全然気が付かなかった。直ぐ近くにいたのに。

 スナミは愕然とする。


「魔王よ。お前の統率力も揺らいできているようだな。次の魔王は人間界を攻める気でいるのだろう。私はこの大陸の人間がどうなってしまうのか、それだけが気がかりなのだ」

 皇帝ザクスエルトは天幕の立て板に貼ってある大陸地図を見る。

「このままでは帝国が魔王城に囚われているミリア姫を助けに行かなければ収まらない。民衆も兵士もあの記事を読み憤っている。魔族共は手ぐすねを引いて帝国の兵士を待ちうけているだろう。

 我々は全滅を免れまい。それを機に魔族は帝国になだれ込んでくる。もう勇者のいない我々には打つ手がない。また魔族に虐げられる時代に逆戻りだ」

 ザクスエルトは拳を握り「私一人で出来る事にも限界がある」


 それを聞いた魔王は

「とにかく皇女を取り返さなくてはならないな。私が魔王城に行ってこよう」

「頼んだぞ魔王ファザリス。お前だけが頼りなのだ」


 魔王は天幕を出て行こうとしたが、振り向いてザクスエルトに言った。

「ザクスエルトよ。前から聞きたかったことがある。17年前の事だが、何故帝国はロランの城を突然攻めたのだ?あのような小国ほっておいても問題は無かったはずだ」

 ザクスエルトは遺跡の方角を見て「あの国はこの遺跡のすぐ近くにあったな」

「ああそうだ」

「私はあの国が遺跡の直ぐ近くにあるにも関わらず、魔物の被害を受けていないのが不思議だった。それで間者に探らせた。魔物とロランは繋がっていたのだ」

「なに?」

「魔物はあの小国だけ攻撃する事は無かった。それどころか魔物に資材を運ばせているところが城の中で目撃された。不可解なのはそれだけではない。トンネルから出てくる人間達が、吸い込まれるようにあの国に入っていく。追跡するとロランの国の領民になっていた」

「あの時の木偶人形か」

「そのことを問い質すためロランを帝都に何度も呼び出したが、奴は応じることは無かった。ローランドを侵攻した時、出来ればロラン王を生け捕りにして吐かせたかったが、奴は追い詰められた時に異様な力を発揮してそれどころではなかった。そして一時後退して、我々の軍が再び攻めた時ロラン王は何故か亡くなっていた。その死体はミイラの様に小さくなっていた」


 皇帝ザクスエルトは魔王の顔を見て「魔王よ。その場に居たそうだが、お前が何かしたのか?」

「いや私はロランと話をしていただけで、奴は急に老化して死んでしまったのだ。自分がもう死ぬことがわかっていたようだった」

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