第29話 遺跡の地下トンネル侵攻2

「スナミさんお願いします」

 新兵がスナミに囁く。

 スナミは簡易椅子から立ち上がりトンネルの奥に向かって歩いてゆく。

 新兵はスナミに現場を案内する。

「スナミさんがいらっしゃいました」

 座っていた兵士たちは兜を被り、武器、盾を手に取り、立ち上がる。金属音を鳴らしながら体を動かし、ウォーミングアップしている。

 スナミは猫耳カチューシャを付けて額の眼を晒す。

「準備はいいですか皆さん?」

「おい野郎ども行くぞ」

「俺達の命をスナミさんに捧げろ」

「おう」

 威勢のいい声をあげて、前列5人、後列5人の帝国兵部隊は前進してゆく。


 「私に命を捧げる?そこまで言わなくてもいいのに」

 多くの帝国兵士が電気信号動作を教本で覚え、実戦に備え厳しい訓練をし、懸命に努力した。その中でも特に完璧な動作を行うことが出来る上位十名がスナミ隊一斑になり、二班、三班と続いた。一班は死亡者が出なかったが、二班、三班は、ミスや動作の遅れで、負傷者、死亡者が出ることもあり、繰り上げで欠員を埋めることもあった。スナミ隊一斑は自分が一番忠実に、指示に的確に動いているという矜持を胸に、スナミストとして、どんな敵とも臆せず戦える精神を養っていた。


 百メートルほど前進した所で

「皆さん敵が来ます」

前方から3匹の甲虫の魔物が突進してくる。

 前列中央三人は手の甲に電流を受けて、大盾を構えてしゃがみ、全体重の乗せて前に押し出す。甲虫が盾にぶつかり、体を立てて前足の鎌で盾を攻撃してくる。前列左右の兵士が足への電流合図を受け、甲虫の側面に出てきて突きを甲虫の腹に入れる。盾を構えていた兵士も電流の間隔でタイミングを計り、盾を下げて前方の甲虫を思い切り突き刺す。


前列が戦闘を開始した少し後、後列左右の兵士も電流を足に受け前に走り出す。甲虫の後ろに回り込むのか?と兵士が思っていると、半歩後ろに微調整して、斜め45度に盾を下ろすよう電流の指示を受ける。そこに体重を乗せると、甲虫がぶつかって来た。

「もう一匹いたのか」

後列組中央の兵士が、矢継ぎ早に出てきて甲虫の腹の横に剣を突き刺す。


兵士全員視界はほとんど何も見えていない。スナミの電流を頼りに動いているだけだ。スナミに命を捧げるというのは誇張ではなく、全てはスナミの操作にかかっていた。


 トンネル攻略は順調に進み入り口から3.8キロ、制圧地点19に到達した。後ろから来た数人の兵士が、篝火を四方に置き、スナミ隊一斑は石の床に腰を下ろし休憩を始めた。辺りが明るくなると、甲虫の死骸が照らし出される。


 スナミが何かに気づき、トンネル奥を指さすと

「人がこちらに歩いて来ます」

「本当ですかスナミさん?魔物がいる方ですよ?」

 奥の暗闇から一人の男がふらつきながらこちらに歩いて来る。兵士たちは目を疑った。何故こんなところを一般人が歩いている?魔物に遭遇しなかったのか?歩いてくる男に兵士が二人近づいて

「お前は何者だ、何故こんなところを歩いている?」

「私は仕事を探しています」

「こんなところで仕事を探すだと?」

 二人の兵士は目を見合わせる。

「お前がやって来た先には何があるんだ?」

「別に何もありませんよ」

「本当か?」

「私はゴブリンの糞です」

「なに?どういう意味だ?」

 男はフラフラとトンネル入り口方向に歩いて行った。スナミはそれを見ながら何か不穏なものを感じていた。魔物は人間をさらって何かをしているのだろうか?


 そしてトンネル入り口方面からスナミを呼ぶ声が聞こえる。

 帝国兵士がスナミの元にやって来て「大変ですスナミさん。この記事見てください」

 帝都新聞一面に「魔王。帝国の第二皇女ミリア様を誘拐、魔王城に監禁」という記事が出ている。

「魔王様が?どういうこと?」

 魔界で何かが起こっているのか?でも私はここから動けない。


 将軍は帝都新聞を手にして「これはどうなっているのだ魔王よ。行方不明のミリア様が何故に魔王城にいるのだ?」

「私が聞きたいくらいだな。私はずっとここにいてトンネル攻略の指揮をしていたのだ」

 将軍は落ち着きなく歩き回り

「何かがおかしいことくらいは私にもわかっている。ザクスエルト陛下が2日後に真相を聞く為この遺跡に御出でになるだろう。それまでに魔王城で何が起こっているのか調べてはくれないだろうか?」

「いいだろう」

 魔王はマントを翻して天幕をでていく。そして自分の影に話しかける。

「聞いてたなヴァシャール。魔王城に行って調べてくれ」

「承知した」

 魔王の影から出たヴァシャールは、魔王城の方に飛翔する。


魔物の巣を潰すのにヴァシャールが抜けるのは痛いがしょうがあるまい。もうすぐトンネルの最奥に到達するようだが、どうなっているのか見当も付かない。今までのような甲虫の敵しかいなければ何の問題もないが、巣を潰すための上級魔族を増やしておくか。



 スナミと兵士たちは甲虫の魔物を倒し、順調にトンネルの地点を確保して進んでゆく。残り500メートル地点になった時兵士達はある事に気が付く。

「骨が多くないか?人骨が」

 皆が松明を地面に近づける。

「いや人骨だけじゃない。魔族の骨もあるぞ」

「ここで激しい戦闘があったんだろうか?」

 進むほどに骨は多くなる。

「もう直ぐ魔物の巣があるってことじゃないんですか?」

「この骨はいつ頃のなんだろうか?最近のではないような気がする」

「さあな」

 ついに地下トンネル制圧地点24に到達し、最奥まで後二百メートルになった。後は魔物の巣を潰せば終わりだ。最奥の方で何か鈍い音がする。スナミ隊一斑は篝火を置きに来た兵士を制する。

「今音がした。何かが来るかもしれない。お前達は一旦下がった方がいい」

「何だ?奥のトンネルが微かに光っているぞ」

 それは一定間隔でチカチカと光っていた。ゆっくりと徐々にその光は明るくなってゆく。

 スナミが前の兵士に聞こえるように「今までの魔物と違うようです。皆さん注意して」

 近くで魔物の唸る声が聞こえる。

「皆さん戦闘準備をしてください」

 電気の合図が手甲にくる、前列は盾を前に構え体重を掛ける。すると光が盾に向かってくる。

「熱い」

 これは炎だ。一瞬明るくなり、魔物の正体はドラゴンだとわかる。

 一斑後列は第23制圧地点まで後退するようにスナミから合図がくる。

「前列も後ろに下がります。私が炎を吐くタイミングを見極めます、焦らないで」

 前列は後退の合図を待つ。炎が止まった瞬間、鋭い電気を足に感じた。前列は盾を持ち上げ後ろに向かって走る。しかし一人もたついている。スナミの説明会で浮かれてた新兵のシンペーくんだ。スナミに認められたくて頑張り、スナミ隊一斑に抜擢されるまでになった。

 盾が溶け地面とくっつき、逃げ遅れてしまい、まさに今ドラゴンの炎の餌食にされようとしていた。

 ドラゴンの口の炎がふきだす。後ろから何者かが飛び出してきた。大きな衝撃音と共に、ドラゴンの首から上が千切れ飛んで地面に転がり、自分の口から出た炎で顔が燃えている。そして胴体は横に倒れた。

シンペーは手を組み魔王を潤んだ眼で見ている。

「魔王さん」

「おそらく次の世代の魔物に変わったのだ。今後はドラゴンだけが出てくるようになるのだろう。我々が巣に近づいて魔物も焦っているのかもしれない」


 スナミは魔王の方を見てあることに気が付く。

「魔王様。ヴァシャール様は?上級魔族は一緒ではないんですか?」

「ヴァシャールは魔王城に行ったまま帰ってこない。上級魔族は遺跡の野営地から居なくなっていた。下級、中級魔族もだ。予想していたより状況は遥かに悪いようだ」

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