第28話 遺跡の地下トンネル侵攻1

 大陸中央から少し北東に行った所にある遺跡に、最初の魔物が出現したのは35年程前だと記録には残っている。

 出現したばかりの魔物は小動物程度の大きさで、通りがかった人が襲われて怪我をするくらいだったが、時が経つにつれ、大きくて強い魔物が出現するようになり被害が拡大、犠牲者も増えていった。


 今では大陸の脅威になるほどの凶悪な魔物が出現するようになり、人間界だけでなく東の魔界にも進出してきて、この大陸で生きる者たちにとって捨て置けない問題になってきていた。

 魔物の大きさは2メートル程、甲虫の姿をしていて外骨格は硬く前足は鎌になっている。鎧を着た帝国兵士が数人がかりで取り囲んでなんとか倒せる強さだった。


 帝国皇帝ザクスエルトは魔物がどこから出現しているのか、遺跡を調査することを命じた。すると遺跡の真ん中にある地下トンネルの入り口から魔物が湧いてきていることが分かった。

 地下トンネル内も調査させてみたが、視界が悪くトンネル奥から魔物が出て来るので、調査隊はトンネル内を全く進むことなく調査を断念した。

 地下トンネルを地上から破壊して、内部に入る事も試されたが、トンネルを構成する物質は硬く、帝国の削岩機では傷一つつかなかった。

 今まで本格的にトンネル内を進み魔物と戦うことはなかったが、魔王ファザリスと皇帝ザクスエルトは大陸の今後の為に、協力してトンネルを侵攻して、最奥にいる魔物を巣ごと全滅させることを決定した。


 遺跡の地下トンネル入口に、魔王がスナミを呼び出した。

「スナミよ、このトンネルがどれくらいの長さか見通すことは出来るか?」

「魔王さま。千里眼を使ってもトンネルの奥の方が良く見えないのです。こんなことは初めてです」

「そうか。どこにでもある普通のアーチ型のトンネルに見えるが、何が違うのだろうか?今度はトンネルを空中から見下ろしてくれ」

 魔王は空に上がっていき、スナミもついていく。

「上からはどうだ、何が見える?」

「トンネルは黒く見えます。中を見通すことは出来ません。トンネル周りは、下の方まで土の層が続いてるだけですね」

「ではトンネルを西に辿ってくれないか」

「分かりました」

「スナミが空中を進むのを魔王が追いかける」

 スナミは急に空中で止まると

「どうやらここが終点のようです。ここから先はずっと土です」

「入口から約5キロ程だな。何が見える?」

「終点は黒い箱のような物が見えます。ただはっきりはしません。箱ではないかもしれません」

「そうか。その最終地点に魔物の巣があると予想しているが、どう思うスナミ?」

「トンネルの幅は入り口と何も変わっていません。こんなところに巣があるとは思えません。もしあるとしたら地下ではないでしょうか」

「やはりトンネルを内部から進んでいかないと、結局何も分からないという事か」



 地下トンネルを攻略する為に帝国軍と魔族は協力してトンネル内を進んでいたが、全然上手くはいってなかった。個々の戦闘能力に重きを置く魔族の戦い方と、人間の集団で力を発揮する戦いは合わず、狭いトンネルでは魔族が人間を襲ってしまう事もあった。結局共闘するのではなく、どちらか一つの種族がトンネルを進むことになった。


 下級、中級魔族でトンネルを進んでいくと侵攻のペースは早いが統制できずに戦線が伸びていき、徐々に混戦になって結局トンネル入り口まで押し戻されてしまう。人間の部隊は狭いトンネル内では数の利を活かせず、トンネルは視界が悪いので兵士の動きは悪く、一匹の魔物を倒すのに時間が掛かり過ぎていた。そのうちに次の魔物が来てしまい、帝国兵はトンネル入り口から全然奥に進むことができなかった。


 見かねた魔王が詰まった魔物を一瞬で爆散させる。

 帝国の兵士達は「もう魔王さん一人でトンネル奥まで行けるんじゃないですかねえ」と自虐的に言った。

 魔王はマントを翻し「いやそれは駄目だ。我々上位魔族は最奥にいる魔物の巣を叩く為、力を温存しなくてはならない。トンネル終点まで戦い続けて力尽きたのでは意味がない。お前達が地道に戦い、この長いトンネルを一定距離ずつ制圧して、確実にトンネルの終点まで進んでもらわねばならない。最後に我々上位魔族が一気に魔物の巣を叩く」


「でもトンネルを進めないので我々人間チームはどうすればいいのでしょうか?と兵士は魔王に聞いてみた」

「そこでスナミの出番だな。帝国兵士は皆、外の広場に集合してくれ」

 トンネル内の魔物は一旦魔族にまかせて、帝国兵士たちは遺跡近くの広場に整列させられた。

 そこにスナミがやってくると、帝国兵士がどよめいた。

「あれが魔族なのか?可愛いぞ」

 むさくるしい男兵士達の所をアイドルが慰問したようにその場が華やいだ。

 今日のスナミは場に合わせて迷彩柄のショートパンツを履いている。

 男たちの視線を一身に浴びたスナミはコホンと咳払いし

「この新しく開発された装置で私が兵士さんの動きをサポートさせていただくのですが、どなかた手伝って下さいませんか?」

「兵士さんだって?声もかわいいな」

 男共がざわざわする。ほとんどの兵士が手を上げている。

「そこの右から三列目のあなた、そうです前に出てきてください」

 二十代前半くらいの指名された兵士は、調子に乗ってガッツポーズする。

「まず鎧を脱いでください」

「えっ」

 若い兵士は鎧を脱ぐ。

「上着もズボンもです」

 パンツ一枚になり、兵士たちから笑い声が聞こえる。

 そして下に置いてあった木箱からスナミは直径5センチ、薄さ3ミリ程のシールのような物を取り出した。

「これを全身の体の部位に貼ってもらいます」

 スナミは若い兵士の手に足に体に、何か所もペタペタと貼っていく。

「この状態で服と鎧を着てもらいます」

 若い兵士が鎧姿に戻ると、スナミは板のような装置を持ち、そこに魔力を込める。

「いいですか、驚かないでください」

 若い兵士は「うわっ」と言って飛び上がった。

 見てる兵士から笑い声が。

「右腕がピリッとしましたスナミさん」


「今電流を右腕の前腕に流しました。これが右の敵を斬ると言う合図です。体の各部位に流れる電流が行動の合図です。電流の強弱や長さで、敵への移動や間合いの詰め方、タイミング等全て私が指示します。同時に違う部位に電流を流す事もあります。これらの組み合わせを全て覚えてもらいます。そこから訓練、実戦という流れになるでしょう」

 兵士は顔を見合わせて、ざわざわし出す。

 兵士たちはこんな戦い方は経験がなく、これでトンネル侵攻出来るのか半信半疑だが、スナミの操る帝国兵士達がトンネル攻略で驚くべき成果をあげていくことになる。

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