入院後初登校とお姫様抱っこ

「マジかよ…」


 あれから2週間と少し、入院後初の登校日の早朝に早くも危機に直面していた。


「エレベーター定期メンテナンスのお知らせって何…?」


 我らが星織高校にあるエレベーターがメンテナンスで使えなかった。そして、所属クラスである2-Cは本館の4階。つまりは、右脚と左腕が使えない状態で4階までの階段を登らないといけないということだ。詰んだ…?


「そもそも学校からそんな連絡あったか?」


 思わず母さんに電話して確認するが


「あんたやっぱり人の話聞いてなかったね!『学校から定期メンテナンスの日程がどうしてもズラせなくて、登校日1週間遅くなっても公欠扱いにしてくれるけどどうする?』って聞いた時に浮ついた様子で『大丈夫!大丈夫!もう動けるから早く行きたい!』言ったやんね!送りの車の中でも大丈夫か聞いても大丈夫しか言わんから知らんよもう!今日もう仕事あるけん、迎えに行けるの夕方だからそれまで自分でどうにかしなさいね!怪我増やさないようにね!」


 くっそ怒られた。確かになんかそんな話した気がする。しかもこれ、母ちゃん1年の時と同じで2階に教室あると思ってるな多分。これもバレたら怒られそう…


「でも流石に片腕も使えないのに松葉杖つきながら階段は無理だよな」


 てなるとアレ、やるしかないな!


 ⭐︎


 朝6時半、ちょっと早めの登校中に私、鞠山風夏まりやまふうか甘楽百華かんらももか友人の美桜ちゃんを助けてくれた藤代くんの話をしていた。 


「ねぇねぇももちゃん!藤代君、今日から登校だってね!」


「そうだね、風夏。結局、気疲れしちゃうだろうからってお見舞い行けなかったし、やっと直接お礼が言える」


「だね〜!学校来れるようになってほんとよかったよ!片手片足じゃ大変だろうし色々助けてあげようね!」


 そんな話をしながら階段に向かうと、今話題に上げていた藤代くんが、座った状態で一生懸命階段を上がっている場面に遭遇してしまった。


 ⭐︎


 片手片足の階段の上がり方。まず階段に座ります。松葉杖と鞄をなるべく高い段に持ち上げます。そしたら使える手足で1段階段を上がります。荷物を通り過ぎたらまたなるべく上の方に持ち上げます。これを4階まで繰り返す!こんな早朝に学校来るやつなんて朝練ある奴らしかいないし、朝練あるやつは教室に寄らないはず!客観的に見てアホっぽい見た目以外は完璧な作戦だぜ!



「あ〜!藤代君久しぶり〜!美桜ちゃんたちのこと助けてくれてありがとうね!怪我大丈夫だった?お見舞い行きたかったんだけど、学校側から止められちゃってて行けなかったんだごめんね!」


 そんな風に思っていた時もありました。よりによってクラスメイトであり双姫の友人である鞠山さんに突撃され完璧だったはずの作戦は崩れ去った。まあ、見つかった時で折り返しの踊り場にも辿り着いてなかったからさもありなんって感じだけど。入院生活で筋力がね、思ったより弱々だったからね、仕方ないね。


「いや、まぁうん。たまたま助けられてよかったよ。お見舞いは気にしないで大丈夫だよ。ははは…」


 明るい茶髪のでかいポニテに人懐っこい表情のなんかもう色々デカいバレー女子が興奮した様子でめっちゃ話しかけてくるが、勢いに押されるのと人にこんな姿見られたらショックで生返事しかできない。


「風夏、勢い強すぎて困ってるからちょっと落ち着いて」


 どうしようかと思っていると、鞠山さんと一緒に登校してきていた甘楽さんが横から助け舟を出してくれた。


「あと、その、うん。見てないから。大丈夫。安心して。ここまで頑張って登ってて偉いと思うよ」


 と思ったら気遣いという名のトドメを刺された。見ないふりするのかい、しないのかい、どっちなんだい!と脳内きんに君が叫んだ。なんかクールビューティーって雰囲気だと思っていた甘楽さんのフォロー下手すぎる姿が新鮮すぎてちょっといいなって思ってしまうのは陰キャの悲しい性なのか。


「あはは…エレベーター使えと思ってきちゃったからさ。階段上がるにはこれしかないかなって」


「あー、今週いっぱいなんだよねこれやってるの。ももちゃんももちゃん、荷物持ってあげて」


「ん。藤代、この2つ以外持って欲しいもない?」


「他は大丈夫だけど、いいの?正直、めちゃくちゃ助かるけど…」


「気にしないで。あんたは恩人だし。あと、今更になっちゃったけど、美桜のこと助けてくれてありがとう。おかげで友達をなくさずにすんだ。ありがとう」


「…いや、本当に偶然、運が良かっただけだよ」


 まっすぐお礼を言われるとどうしても戸惑ってしまう。たまたま下にいたのが自分だっただけなのだ。棚ぼたのような理由でしみじみお礼を言われるのが妙にむず痒く感じて少し俯いてしまう。本当に気がついたら体が動いていただけ。助けようとして助けたわけじゃない。何より、自分が原因で落ち込んでる人がいるという状況がすごく罪悪感を感じてしまう。


「偶然でもなんでも藤代君がいなきゃ美桜ちゃん生きてなかったかもしれないんだよ?藤代君が居てくれたから舞ちゃんは目の前で幼馴染の死ぬところを見なくて済んだし、私たちは大切な友人をこんな若い時に亡くさずにすんだ。君のおかげで悲しい思いをしなくて済んだの。だから俺が助けたんだ!くらいに思っていいと思うんだ。それで、お礼はちゃんと受け取ってくれると嬉しいな。こんなに大きな怪我を負って助けてくれたんだから、ね?」


 横から覗き込むように目線を合わせてきた真剣な表情の鞠山さんの言葉にハッとして顔をあげる。俺が原因で悲しんでる、じゃなくて俺のおかげで悲しい思いをしなくて済んだという考え方が不思議とすんなりと受け入れられて、さっきまで感じていた罪悪感のようなものが薄くなった。


「そう、だね。うん、そうだ。ありがとう鞠山さん」


「うんうん!いい表情になったね!こっちこそ、ありがとう!それじゃ、私は藤代君を運ぶね!」


「うん、お願い……え?何をはこっ…!うおっ!」


 妙なことを鞠山さんが言ったと思った次の瞬間には鞠山さんに横抱き、つまりお姫様抱っこされていた。


「ちょっ!まって!心の準備とか!それに重たいでしょ!危ないって!」


 同級生、それもクラスでトップクラスに可愛い女子にお姫様抱っこされてるのがめちゃくちゃ恥ずかしくて、でも暴れると危ないから身を固くすることしかできない。


「大丈夫!大丈夫!入院長かったみたいだし筋肉落ちてるから軽いくらい!ほらもっとリラックスして?体に力入っちゃってると筋肉張っちゃうから体預けていいんだよ?ほら、よーしよーし」


 そんなこと言いながらするすると2階まで上がってしまう。嘘だろさっきまでの俺の努力なんだったんだよ。それに、開けた場所で赤子をあやすかのように優しく揺すり始める。


「ほんと、恥ずかしいから!ほら、ここまでこれたらあとは自分で上がれるから大丈夫だって!風呂もちゃんと入れてるわけじゃないから臭いだって!」


「えー?臭くなんてないよ?藤代君って感じのいい匂いするよ?」


「やめて!よりによって頭に鼻近づけてスンスンしないで!具体的な感想も言わないで!抱き寄せてそれやられるの色々アウトだから!ちゃんと自分で上がれるから降ろして!大丈夫だから!」


「だーめ。1人じゃなんかあったら心配だし、あの上がり方だと荷物落とした時に危ないじゃん。他の人たちにも見られちゃうよ?何より、それでまた怪我したら美桜たちもっと悲しむよ?」


 恥ずかしすぎて講義するも聞き入れてもらえないどころかさらに状況が悪化する。鞠山さんの抱っこの安定感と安心感ヤバすぎて体の力は抜けていくけど恥ずかしさは反比例して強くなる。

 それでも必死に抗議していたら横で見守っていた甘楽さんからそんなことを言われる。他の奴らに見られるのも嫌だし、追加で怪我しようものなら、最初のお見舞いの時あんだけ落ち込んでた姫野さん姫廻さんはもっと責任を感じてしまうかもしれない。


「ぐっ。それは、そうだけど」


「今週はエレベーター使えないんだしさ、甘えていいんだよ。さっきお礼はちゃんと受け取ってくれると嬉しいって風夏が言ってたじゃん。恩返しさせてよ。私たちのこと助かると思ってさ。お願い」


 それでも抗議しようとしたがそんなことを言われて黙ってしまう。そして悩んで悩んで。


「じゃあ、申し訳ないんだけど、お願いします」



「うん。ありかとう、藤代」


「いい感じにリラックスしてくれたね〜。やっぱ力抜いてくれた方がフィットして運びやすいね。じゃあ教室に向けて出発!」

「埋めたかったら胸、いいんだよ?」ボソッ


「…ッ!」


「顔真っ赤でかーわいー!」


「ほら、からかわないの。可愛いのはその通りだけど」


「男子に向かって可愛い攻撃は羞恥心刺激されるだけなんですけど!?」


 そんなこんなで結局のところ運んでもらうことにした。頭に当たっている胸を意識しまくっていたことがバレてたのは、もうご愛嬌というしかない。


「廊下が騒がしいから誰かと思えば藤代じゃないか!久しぶりだな!エレベーター使えないし私が運んでやろうかと思ってたが、風夏と百華に運んでもらえるなら安心だな!2人とも、しっかり運んでやれよ!」


「はい!監督!」

「もちろんです。先生」


 早々に担任であり女子バレー部顧問である田辺先生に見られた。神は死んだらしい。

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