椿とクリスマス
街はクリスマスムードだった。
広間には大きなクリスマスツリー。
眩しいくらいのイルミネーション。
なぜ、私はここにいるんだろうか。
いや、なぜ私はここに臣と一緒に——
数時間前、昼休みのこと
「私今日デートなんだよね。」
唐突に言ったのは葵。
全員の視線が葵に注がれる。
「誰と?」
「いやいや、聞くまでもないでしょ。」
葵は俯きがちに言う。
「はっさん……」
頰が赤くなっていた。
「いつのまに!?」
「いつのまにか〜」
「どっちが誘ったの?」
「はっさんが誘ってくれた……」
照れる葵を見てかわいいな、と思いながら、一人沈んでいる奈乃香に気づく。
「うちらは非リアの集まりだと思ってたのに……」
「それは無理があるよ。」
葵は首を横に振る。
「舞香は他クラス、恵那は他校に彼氏がいるし、唯華はつくろうと思えばいくらでも相手はいるし、椿は守間くんがいる。」
「椿は守間くんとどこか行かないの?」
椿は怪しいくらい慌てて否定する。
「私の話はいいからさ……葵はどこに行くの?」
「クリスマスマーケットとイルミネーション。椿も参考にしてね。」
肩をすくめる。
「それで、プレゼント交換するんだけど。」
「最高じゃん。」
唯華の褒め言葉に葵は嬉しそうに口角を上げる。
「迷った末に、マフラーにしたんだけど、どうかな?」
「いいと思う!!」
椿は小さく拍手した。
「でも、あいつマフラーしないじゃん。」
今更不安がっても仕方ないのに葵は確認するように聞く。
「でも、いつも寒がってる。」
「大丈夫!自信持って!」
なんて言ってたのに……
「お嬢、あれ、忘れ物ですか?」
気づいたのは臣だった。
葵の机の横にかけられたおしゃれな紙袋。
「あー!!」
椿は慌てて中身を確認するが、やっぱりマフラーだった。
「どうしよう……」
「なんですか、それ。」
「今日、クリスマスだから……その、プレゼントで、葵がデートだから。」
臣は椿の要領を得ない説明で理解してくれた。
「まずは連絡しましょう。」
椿は葵にメッセージを送るが一向に既読にならない。
椿は決めた。
「これ、届けに行ってもいい?」
「いいですけど……場所わかるんですか?」
「わか……る!」
葵の返信は目的地に着く前に来ていた。
「わざわざありがとね。」
葵は椿と、その隣の清臣を見て笑う。
「なんか……ごめんね。二人も予定あったでしょ。」
「予定……?」
「邪魔してごめんね!」
葵はそう言って走り去っていく。
風のような速さだった。
「なにも、ないよね……?」
「はい。」
とはいえせっかく来たのだ。
「ちょっと見てく?」
「クリスマスマーケットって初めて。」
椿はうかれている。
両手には食べ物の山。
「食べきれますか?」
「食べれる!食べれる!」
言いながら頬張る椿はなにかの小動物みたいだった。
危なっかしい椿は普通に歩いていると、人にぶつかりそうになるため、清臣が細かく気を配っていないと駄目だった。
少し前なら手のかかるこのお嬢様が哀れで、苛立つくらいだったけど、今は……
「カップル割やってまーす!」
そこかしこからそんな声が聞こえる。
「そこのお二人どうですか?」
声をかけられたのが自分たちと気づくのには時間がかかった。
「今ならカップルでワンゲーム無料ですよ!」
「カップル……?」
椿は目をぱちくりして、清臣を見る。
清臣は何も言わない。
「やられますか?」
椿はブンブンと首を横に振る。
「結構です!」
勧誘のお姉さんは残念そうに笑う。
「また来てくださいね!」
納得の行かなそうな顔をしている椿に清臣は言った。
「俺たち、側からみたらカップルですよ。」
椿は驚いて、清臣から少し距離を取る。
清臣はその距離を縮めて言った。
「なにか、問題でも?」
「あるよ!」
椿は再び距離をとる。
「臣のファンに刺されたらどうするの。」
「させませんよ。」
「そういう話じゃないの!」
椿は小さくため息をつく。
とはいえ、二人きりでここにいる時点で怪しい。
カップルだという証明はできないけれど、カップルじゃないという証明もできない。
「綺麗……」
椿が足を止める。
いつのまにか中央の広場だった。
三階分の建物くらいのクリスマスツリー。
クリスマスカラーの装飾がツリーを彩っている。
その輝きを反射する椿の瞳もきらめいている。
「臣は怖くなかった?」
椿が呟くように言う。
仁のことだ。
「お嬢は?」
「怖くなかった……」
椿は息を吐くように言う。
肩から力が抜ける。
「私は、死んでもいい人間だって思っちゃった。」
悲しそうな瞳が力無く笑う。
「それが今は、少し怖い。」
清臣は何も言えなかった。
「でもね、臣が生かそうとしてくれたから、大丈夫だった。」
椿はくすぐったくなるような笑みをこぼす。
「臣がいてくれて良かった。」
嘘のない清廉な言葉。
「あの、写真撮ってもらえませんか?」
声をかけられて椿は快く返事をする。
この綺麗で脆い心の持ち主を守らなければと思う。
そして、それ以上に、彼女が、愛おしい。
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