第22話 追撃

 街の外にて待機しているヴァルキリー隊に入電があった。

 「行政府にて火災。襲撃の可能性あり」

 ミアが読み上げた電文を聞いたサラは少し考え込む。

 「狙いは混乱に乗じて、行政府を壊滅。こちらの行政機能を麻痺させる事か。意図としては国の全体的な混乱と機能不全だろうな」

 「それは他国には意味があるのですか?」

 聞いていたメアリは素直に尋ねる。

 「基本的には無意味だ。だが、相手がこの国に侵攻する気なら別だ」

 「戦争ですか?」

 「可能性はある。国家の中枢機能の一部でも欠けた状態では、戦争ともなれば、大きな影響を及ぼすからな」

 「どうすれば・・・」

 「我々みたいな末端には何もする事は無い。あるとすれば、実行犯を捕まえて、どこの誰が計画したかを吐かせる事だ」

 「では・・・我々も実行犯の探索に」

 「相手は武器を持っている。我々には弾が無い。威嚇は出来るだろうが、抵抗され、ハッタリだとバレた瞬間、不利になるだけだ」

 「弾ですか・・・調達は?」

 「この混乱ぶりだと、弾薬庫から運び出しても届くのに1時間以上は掛かるだろうな。その間に逃げ出しているだろう」

 「ですが・・・」

 「解っている。何もしないよりマシだろう。部隊を分けて、この辺りの探索を行う。不審者は拘束しろ。抵抗されたら、敵の人着と逃走方向だけを確認しつつ、撤退しろ。深追いして、損害を出すわけにはいかない」

 部隊は装甲車を中心として、4部隊に分けられた。

 装甲車と乗馬科、普通科。特科は大砲のお守りがあるので、随伴しない。

 武器は普通科の歩兵銃に装着した銃剣と乗馬科の腰に提げたサーベル程度。

 相手が銃を所持していたら、勝ち目など無い。

 彼女達は4つの方角に別れ、捜索を開始した。

 襲撃者は多分、国境へと向かうはず。一番近い国境に向かう道を捜索するのが最良だが、発見され易い街道などを進むかどうかは怪しかった。

 それでも装甲車に普通科の4人を外に掴まらせて乗せる。

 戦車跨乗と呼ばれるやり方だが、この時点において、一般的では無い。

 あくまでも足の遅い歩兵を装甲車の外に掴ませて移動させる程度のアイデアだった。

 だが、それは思いの外、良いアイデアだった。

 落下する危険はあったが、体を縄で車体に縛るなど工夫すれば、その危険も少なくなる。それで多くの兵員を高速で移動させる事が出来る。

 まだ、トラックなどが充分ではないヴァルキリー隊においては今後、必要とされるとサラは考えた。

 馬を伴い装甲車は街道を突き進んだ。

 すると、かなりの速度で進む荷馬車を発見した。

 荷馬車には随伴する馬も見受けられる。

 「あれを臨検する。先回りするぞ」

 サラの指示で速度が更に加速する。装甲車の上に載っているヴァルキリー達は振り落とされないようにするのが精一杯だった。

 装甲車に追われている事を察した馬車は突如として、速度を上げた。

 だが、所詮は荷馬車。装甲車に勝てるはずもなく、馬にまで包囲され、強制的に停車させられる。

 乗っていた5人の男女は皆、外国人のようだった。

 「悪いが、調べさせて貰う。代表者はどいつだ?」

 サラはサーベルを抜いて、威嚇するように荷馬車から降りた男女を見る。

 周囲には歩兵銃に着剣をしたヴァルキリー達が並ぶ。

 剣先を向けられて、男女は弱弱しい感じだった。

 一人の屈強そうな体躯の男が名乗り出る。

 「私は帝国の商人でダムと申します」

 「ダムか・・・王国に何用で?先程は逃げるように走っていたが?」

 「いえ・・・見慣れない車が追いかけてきたので・・・恐怖のあまり、速度を上げてしまっただけでして」

 「そうか・・・荷馬車の荷は?」

 「王都で全て降ろしたので、空であります」

 「空か・・・何を持ってきた?」

 「毛皮です。帝国の名産品ですから」

 「毛皮か・・・。通行証を見せろ」

 「通行証ですか?」

 「あぁ・・・帝国から荷馬車で来たのなら・・・通行証が無ければ検問を通れないだろ?」

 国境を超える際、街道に設置された検問では領国から許可を受けるため、通行証が発行される。通行証に許可を示すスタンプが無ければ、入国を許可されない。

 「こちらになります」

 ダムは通行証を胸元から取り出す。

 通行証は外国人にとって、身分証明でもある。これ無しだと、不法入国者として、逮捕される可能性が高い。

 サラは通行証を開き、スタンプの日時などを確認する。

 軍、警察の幹部だと、このような書類の見極めも知識として当然、ある。

 「確かに・・・本物だな」

 サラはダムに通行証を返す。ダムは安堵したようにそれを受け取った。

 刹那、サラはダムの左首筋にサーベルの背を叩きつける。

 「総員、逮捕!」

 サラの一声で、ヴァルキリー達が荷馬車の前に並ぶ男女に飛び掛かる。

 「やれぇえええ!」

 サラに打ち付けられたダムは懐から拳銃を抜いて、サラに向けて発砲した。

 銃弾は確かにサラの胸元を貫く。だが、それでもサラはサーベルを振るって、彼の右腕を切り落とした。

 悲鳴と怒号、銃声が飛び交う。

 僅か数分の内に全てが終わる。

 ダムは右腕を切り落とされ、蹴り飛ばされて、その場に意識を失って転がる。

 男3人が銃剣で刺され、絶命、男1人、女1人が重傷ながら、生きている。

 彼らは拳銃やナイフを隠し持っていた。

 ヴァルキリー隊はサラが胸元を撃たれたが、それ以外は軽傷で済んだ。

 メアリが不安そうにサラに駆け寄る。

 「大丈夫でりますか?」

 そう尋ねられ、少し息苦しそうにするサラは穴の開いたエプロンをずらす。

 そこには銃弾が突き刺さった懐中時計があった。

 「ヴァルキリーになった時に父親がくれたもんでね」

 サラはそう笑った。

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