第51話新しい器
叫ぶとほぼ同時に、居室の扉と窓が衝撃音と共にはじけ飛んだ。
ガシャーン! と音を立ててガラスと扉が粉々になり、驚いたメディオラと執事が顔を上げて、敵襲に対して身構える。
執事の手がアメリアから離れた瞬間、黒い影が彼女の体をすくい上げ脱兎のごとく走り出した。
「ヘルハウンド!」
「ピクシーの聴覚を共有してここでの話は全部聞いていました! どうりで死臭がするはずですよ! 黄泉の国から連れ戻した魂だったなんて!」
走るヘルハウンドの後方から、爆発音が響く。振り返ると、サラマンダーが本来の姿をさらしてメディオラに向かって火を噴いている。
「サラマンダー! 逃げて! 直接戦って勝てる相手じゃない!」
死が迫り弱った状態であっても、六つの恩寵を持つメディオラは魔女界の頂点に立つ実力の持ち主だ。ドラゴンですら調伏したことがあるという逸話を持つ大魔女に、サラマンダーが敵うはずがない。
「今から大切な儀式なの。邪魔しないで頂戴」
メディオラから放たれた真空の風魔法が、炎を薙ぎ払いながらサラマンダーに直撃する。
「ぐあああ!」
鱗を切り刻まれ、血をまき散らす魔物に対し、メディオラは容赦なく攻撃を続ける。手足を引きちぎろうとする魔法から逃れるように、サラマンダーは体を変化させ、拘束から逃れて姿を消した。
小さくなって身を隠したのだろうが、傷だらけの彼が生きているのかと不安になり、ヘルハウンドに声をかける。
「待って! サラマンダーを置いていけない! 私が呼んだから! 私のせいで!」
「大丈夫、アイツは死んでない。今はアメリアが逃げ切ることだけ考えて!」
どこかから現れたケット・シーが、いつの間にか二人の隣で並走していた。
「大丈夫、僕らが絶対にアメリアを助けるから!」
予知を駆使してメディオラの攻撃を避けていけば、逃げ切るのは不可能ではないと言い切るが、彼の瞳にも不安の色が浮いている。
予知は万能ではないし、分かっていても避けられない未来のほうが多いとアメリアも知っている。
それでもアメリアを不安にさせまいと気丈に振る舞う姿に涙が浮かんでくる。
「……! 来る!」
ケット・シーが声をあげると同時に、視界が白く染まる。その直後、バリバリッという雷鳴がとどろき、体に衝撃が走る。
「きゃああああ!」
痛みとしびれで一瞬意識を飛ばす。地面に転げ落ちたと気付いた時にはもう、メディオラがすぐそこまで迫っていた。
二人はどこにいるのかと頭を起こした時、少し離れたところに倒れている彼らの元に槍が降り注いだ。
声を上げる間もなく、無数の槍が魔物たちの体を貫く。
「いや! ケット・シー! ヘルハウンド!」
降り注いだ槍は二人を貫いたあと、煙のように消えていった。床に倒れた彼らはピクリとも動かない。駆け寄ろうと身を起こしたところで、拘束魔法をかけられ身動きが取れなくなる。
「アラ? あなた、魔物を使役しているの? 魔法も使えないのに……」
メディオラは興味深そうにじろじろと魔物を観察している。
執事の男がアメリアの頭を掴んで、まったく余計な手間をかけさせてと文句を言いながら、引きずるように魔法陣まで連れていく。
サラマンダーが暴れた室内は荒れ果てていたが、魔法陣の周囲は結界で守られているのか塵一つ落ちていない。
六角形の魔法陣には、さきほどと変わらず兄姉たちが整然と並べられている。
その中心の真ん中に、拘束したアメリアを横たえた。
「まずは肉体からあなたの魂を抜き取るから、いい子にしていてね」
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