第52話一蓮托生


 魂を抜き取ると一時的に肉体は絶命する。

 魂の移管はそのあとだ。

 六人の命を使って反魂術を発動させ、メディオラの魂はアメリアの肉体へと移る。

 そうして大魔女メディオラは生まれ直すのだと、ひび割れた顔で嬉しそうに笑う。


「〝吸魂術〟」


 魔法を発動させた右手で、アメリアの額を掴む。

 力が吸い上げられている感覚がして、手足が強張り、魂が抜き取られると本能で感じる。必死に抗おうとするが拘束魔法はびくともしない。

 体の中からメリメリと嫌な音を立てて、魂と肉体が無理やり引き剥がされていく。死の恐怖が襲ってくる。


 ――――死にたくない! と心の中で叫んだ瞬間、メディオラの手がバチン! と感電したように弾かれ、その勢いで後ろに倒れ込んだ。


「はっ!? 術が弾かれた……? どうして……」


 己の術が失敗して驚くメディオラが呟いた疑問に答える声がした。


「それはアメリアの命がアタシたちとつながっているからよ。アタシたちとの魂のつながりを切らないと、彼女の魂を抜き取ることはできないわ」


 声と共に目の前にいたメディオラが何かの力で弾き飛ばされた。そしてアメリアを縛っていた拘束魔法が引きちぎられ、優しく抱き上げられた。

 顔をあげるとそこには、ホッとしたように微笑むピクシーがいた。


「ピクシー……来てくれた……」

「遅くなってごめんなさいね。怪我はない?」


 見捨てず助けに来てくれた嬉しさと、巻き込んでしまった申し訳なさが交錯する。


「待ちなさい! そこの魔物が言ったことは本当なの? アメリアは、魔物と一蓮托生の契約をしたということ?」


 我に返ったメディオラが叫ぶが、アメリアは何か抗う術を使った覚えもないしピクシーの言った言葉の意味も分からないので戸惑うしかない。

 恐らく魔物たちが何かの術を仕掛けておいてくれて、そのおかげで魂を抜かれずに済んだのだと予想するが、ピクシーがにやりと笑ってそのとおりだと肯定した。


「そうよ。アタシたちは、アメリアの命とつなぐ契約をした。残念ね、吸魂術では魂のつながりは断ち切れない。悪い魔女の思い通りにはさせないわ」


「魂をつないだだと!? アメリア、あなた余計なことをして! 手間を増やさないで頂戴! 契約している魔物を片づけないと儀式が始められないじゃない! もう時間がないのに!」


「悪いけど、もう他の魔物たちはこの屋敷から脱出しているわ。魔物たちを全て見つけて殺さないと、アメリアの体は手に入らないけど、それまであなたのその体がもつかしらね。もうそろそろ崩れるんじゃない?」


 ニヤリと笑うピクシーに、メディオラの怒りが爆発する。

 二人のやりとりをアメリアはハラハラしながら見守るしかない。すぐにでもこの場から逃げるべきだと思うのに、彼は余裕のある態度で話を続けている。


「魔物のくせに、私の新しい体をかすめ取ろうっていうの!? ……もういいわ、できるだけ傷をつけたくなかったけど、こうなったらもう物理的に殺すしかないわね。体はあとで修復すれば使えるようになるでしょう。まっさらな新しい体に傷をつけたくなかったのに……」


 メディオラは壁に飾られている剣を手に取る。

 魂の抜くのではなく、アメリアを殺して肉体と魂を切り離す作戦に切り替えたのだと分かり、ピクシーの顔がさっと青ざめる。


「物理的に殺すって手があったのね……! 死体を修復できるの? 滅茶苦茶だわ、させるわけないでしょそんなこと!」


 言い終わらないうちにピクシーはアメリアを抱えたまま走り出す。


「逃がすわけないでしょう。矮小な魔物に何ができるというの」


 逃げる先に次々と土魔法で壁を築いてアメリアたちの行く手を塞いでいく。

 メディオラは魔法を放つたび、体にひび割れが走る様子を見ると、恐らくもうあの体は長くは持たないのだろう。

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