第50話禁忌の証



「あら、魔法の調整も上手くコントロールできないわ。本当にもうこの体は限界ね。早く取り換えなくっちゃ。崩れちゃうわ」


 ……取り換える? 何を? 


 声に出せなかったはずだが、アメリアの疑問をくみ取ったかのようにメディオラが答えてくれた。


「あなたの体と取り換えるのよ。元々、あなたは私の次の器になるために生まれてきたの。自分自身を理解していなかった私は、それに気づかずあなたをないがしろにしてしまった。本当にごめんなさいね。あなたは私なのだから、もっと大切に扱わないといけなかったのに」


 どうか許してねと優しい声音で語りかけられ、震えが止まらない。


 ――――メディオラの持つ恩寵を、ひとつずつ受け継いだ六人の子供たち。

最後に生まれたアメリアは、恩寵を持たず母の容姿だけを受け継いでいた。

 その意味が、ようやく理解できたのだとメディオラは語る。


「反魂術の方法を読み解くと、死者の魂を呼び戻すのに生贄となる魔女が六人必要なの。あの子たちはその生贄のために生まれ、アメリアは私の次の体になるために生まれたのよ。答えずっと目の前にあったのに、私ったら壊れる寸前まで気付かないなんて本当に愚かだわ」


 生贄。器。そのために生まれた子供たち。

 言葉の意味が遅効性の毒みたいにじわじわとアメリアを蝕んていく。

 兄姉たちは敬愛する母の寵愛を得ようと必死になっていた。家督争いだって、根本にあるのは一番愛されている子どもは自分であると思いたかったからに違いない。


 それなのに……。

 母にとって子どもたちは、自分の命をつなぐ生贄でしかなかったのかと兄姉たちが知ったら、どれほど絶望するだろうかと思うと、彼らが今正気を失っていて良かったとすら思える。


「ああ、体が壊れる前に魔法書を読み解けて、本当に良かったわ。ねえ、あなたも嬉しいでしょう? あなたの体が大魔女メディオラになるのよ。栄誉なことだと誇っていいのよ」


 恩寵を持った六人の子どもと、恩寵を持たず生まれた自分の存在理由。

 兄姉たちは、メディオラの恩寵をひとつずつ持たされた。

 アメリアは彼女の新しい体となるべく、器として生まれた。

 生贄の恩寵は、恐らく新しい体に集約され、そうしてメディオラは新しく生まれ直す。


 六つの恩寵を持って生まれた奇跡の大魔女メディオラ。

 それはかつて反魂術の生贄に使われた六人の魔女の恩寵が、その体に集約されたに過ぎない。

 

奇跡の存在などではなく、禁忌の証だったのだ。


ガタガタと震えるアメリアの横を、無表情の執事が隣室へ兄姉を順番に運んでいく。彼らが運ばれていった先で、これから何が起きるのか、言われなくても分かってしまう。


三男のヘレックが運ばれたあと、執事は無表情のまま次にアメリアの肩に手を置いた。首を巡らせて開け放たれた隣室の中を見ると、六角形の魔法陣が目に入った。その六角に、兄姉たちが並べられている。


『この家に戻れば、そう遠くない未来でアメリアは死ぬよ。あと、兄姉たちもアメリアと時を同じくして死ぬ』


 ケット・シーが予知したのは、この未来だったのだ。

兄姉たちは生贄に。アメリアは肉体を奪われて死ぬ。目の前に自分の死を突き付けられて、絶叫に近い懇願が口から溢れ出る。


「……嫌! 死にたくない! 私はまだ生きたい! 助けて! お願いピクシー! サラマンダー! ケット・シー! ヘルハウンド!」


 無意識に叫んだのは自分と使い魔契約をしてくれた魔物たちの名。

 彼らだけがアメリアを大切にしてくれた。

守ると言ってくれた。

役立たずは要らないと家族からも捨てられるような自分のことを、必要としてくれたのは彼らだけだった。


(謝罪も感謝もまだちゃんと彼らに伝えていない。ここで死ぬわけにはいかない!)


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