第49話良い夢が見られるお茶





 かすれた声で過去を語り終えたメディオラが口を閉じると、静寂だけがその場を支配する。一族が過去、禁術を使い生計を立てる一族だったという事実も、尊敬する母が禁忌の子であったことも、衝撃的すぎて受け入れられない。


 アメリアもまたショックを受けていたが、ヘルハウンドが『あれは死者だ』と言っていた意味が繋がったことで、答え合わせをしているように感じて、他の兄姉たちよりも落ち着いていた。


「なぜ……その事実を、私たち全員に聞かせたのですか?」


 頭を占めていた疑問が、アメリアの口からこぼれる。

 静まり返った部屋で、アメリアのつぶやきはよく響いた。祖先の悪事を葬ることに罪悪感を覚えたにしても、家から除名したアメリアにまでもこの事実を告げてしまうのはおかしいと感じる。


「ああ、あなたアメリアね。そう、私ねえあなたのことを誤解していたのよ。恩寵を持たず魔法の才能が全くない子が生まれてしまったから、使い道がないと思い込んでいたの。でもね、こうなってみて、ようやくあなたが生まれた意味が理解できたのよ。あなたは私のために生まれた子なんだって」


 母の言葉を受けて、喜ぶべきかと一瞬気持ちが高揚する。

 もしかして、母はアメリアを愛していたと気付いたという告白なのかと期待しそうになったが、母の目を見て淡い期待は霧散していった。


 アメリアを、動き回る虫を観察するような冷たい目で見ている。どうやって足を動かすのか、どんな形態をしているのか、しっかりと確かめるような、そんな目で。



「私が、どう、メディオラ様のためになるのですか……?」

「そのままの意味よ。もちろん、他の子どもたちも私のためになるのよ。ひとりひとり、私の恩寵をひとつずつ受け継いだのは、全て私のためだったとようやく気が付いたの。良かったわ、あなたたちを産んで」


 にこり、と笑う母の頬に、ピシリとひび割れが走る。

 言っている意味も分からない。ただ異様な空気がこの場を支配している。

 先ほどから長兄が何も言葉を発しなくなったと気が付いて、ふと目線を送ると、モノリスは焦点の合わない目でゆらゆらと頭を揺らしていた。


「……えっ!?」


 驚いて他の兄姉たちを見回すと、彼らもまたぼんやりと天を仰いでいたりよだれを垂らして今にも倒れそうになっていたり、誰も正気ではない姿をさらしていて、驚いたアメリアが声をあげると、それをきっかけに次々と椅子から崩れ落ちていった。


「えっ!? な、ど、どうしたんですか!? 兄さんたち!」


 ガタリと椅子を倒して立ち上がると、メディオラが『あら?』と言いながら小首をかしげる。


「やあね。あなたお茶を飲まなかったの? せっかく良い茶葉を使ってあげたのに」


 ハッとして皆のティーカップを見ると、ほとんど飲み干されている。


「ま、まさか……お茶に毒を盛ったんですか……?」

「毒じゃないわよ。ただ良い夢が見られるお薬よ。害はないわ」


 床に崩れ落ちた兄を、そばに控えていた執事が表情一つ変えず引き摺ってどこかへと運んで行く。


 ――――逃げなくては。今すぐここから逃げなくてはいけない。

 

 執事の目がアメリアに向いた瞬間、弾かれたように走り出し、部屋の扉から逃げ出そうと手を伸ばす。

 だが手が届く前に、メディオラから放たれ拘束魔法がアメリアの体を封じた。魔法のロープに息もできないほどきつく締め上げられ、苦しさからうめき声をあげる。


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