第48話大魔女の正体


過去、メディオラになにがあったのか分からないが、本人には自分に呪術が施されていることを知らなかったようだから、周囲の者が命をつなぎとめるために秘密裏に行ったことなのだろうかと新たな問題が浮上し、皆に再び緊張が走る。


「その呪術を使ったのは誰なのです? ……一族の誰か、ですか?」


 恐る恐るヘレックがメディオラに訊ねた。

 魔女が死霊使いの呪術を使ったら、処罰されるだけでは済まない。良くて一族追放、内容によっては処刑されるほどの大罪である。

 メディオラを救うためとは言え、禁じられた呪術を使った者がチューベローズ家の身内か身近にいるのであれば、一族全体が処罰の対象になるかもしれない。


 自分たちの立場が危うくなる可能性を感じて、兄姉たちは顔を青くしている。だがメディオラはゆったりと首を振ってそれを否定した。


「少し違うわ。命をつなぎとめたのではなく、死者の魂を蘇らせたのよ。呪術を使ったのは、あなたたちのおじいちゃま、おばあちゃまに当たる私の両親よ」

「!!!」

 

 反魂術、とアメリアは口の中でつぶやく。

 死者の魂を蘇らせる呪術は、魔女の歴史書で反魂を試みた大罪人がいたという伝説が残っているだけで、実在するものだとは思っていなかった。


現在の魔女規約では、反魂術について検証することすら禁止している。魔女にとって死霊は祓うべき存在であり、死者の魂に触れることは魔女を穢れさせると言われている。


 メディオラの告白が事実ならば、ここにいる母は黄泉から戻った死者ということになる。


「ま、待ってください。祖父母が亡くなられたのは、我々がほんの子供の頃だったはず……では、母上はいつ、呪術によって蘇ったのですか? それを知る者は、他に誰が……」


 皆、てっきり後継者指名か遺産についての話だと思っていたのに、一族の根幹を揺るがすような事実を暴露され愕然として口がきけずにいるなか、モノリスが唯一立ち上がり母に疑問をぶつける。

 血縁が過去に禁術を使ったという事実を、秘匿するか公開するか決めなくてはならない。もちろん兄姉たちは隠し通す方向で話をまとめたい。


「両親が亡くなる時に、託された魔法書があったのよ。誰にも見せるなと言われていたそれは、隠し文字が仕込まれていてね。そこに全てが書かれていたの」


 メディオラの両親は、没落の一途を辿るチューベローズ家の再興を夢見ていた。


 一族はあまり恩寵に恵まれず、特に祖父母の世代では恩寵を持って生まれたのは一人だけだった。そのため、あの家の魔女は只人と変わらぬなどという誹りを受けるような有様だったので、祖父である当時のチューベローズ当主は、大金を支払って優れた恩寵を持つ者を輩出する家から嫁を娶った。

 生まれてくる子に家名の存続の期待を込めて、祖父母は新たな魔女の誕生を待ちわびていた。


 ところが、メディオラの母は酷い難産で、結果生まれてきた赤子は息をしていなかった。

追い打ちをかけるように、難産のせいで祖母は出産後に生死の境をさまよい、なんとか回復した時にはもう、新たに子を孕むのは難しい体になってしまっていた。

嫁を娶るために家の財産をほとんど失ってしまったため、もう子が望めないとなればチューベローズ家の断絶は決まったも同然である。


家の断絶の危機に陥った両親が、禁忌に手を染めた。


「チューベローズ家には、過去に封印された禁術が保管されていたの。まだ魔女協会が設立される遥か昔、呪術師と魔女の境界が曖昧だった時代に、反魂術をおこなっていた家系だったのよ。生贄を必要とする非人道的な術であるから、表沙汰になれば一族全て討伐さてしまう。だからずっと秘密裏に依頼を受けていたそうよ」


 それも、魔女協会の設立とともに完全に封印され、その存在は完全に闇に葬られたはずだった。だが秘術は本家の長子に、隠し文字で書き記された魔法書が引き継がれ続けてきた。

 メディオラの父はその隠し文字を読み解き、封印されていた反魂術を試みたのであった。


 ――――そうして生きかえった子が、大魔女メディオラである。


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