第46話家族水入らずのお茶会
「アメリアを呼んだのも、死を目前にして母心が湧いたのではないか? さすがに除名を取り消そうなどとは仰らないと思うが、少し財産を残してやるおつもりなのではと考えている」
「まあ、除名した者を戻した前例もないし、一族の同意を得られないから家名を戻すのは現実的じゃないね。じゃあやっぱり形見分けみたいなものか」
兄の予想は筋が通っていて、納得がいった次兄がその意見に賛同すると皆に『なるほど』という空気が流れる。出来損ないにわずかでも財産をもっていかれるのは業腹だが、死期が迫り気弱になっている母の感傷に否定的なことを言うのも憚れるため、皆不満を口にはしなかった。
母の居室に全員で向かうと、執事が扉を開けて皆を迎え入れてくれた。メディオラの寝室ではなく、ティールームへ通されると、大きな丸いテーブルにはすでにお茶の用意が整えられていて、安楽椅子に座ったメディオラがその中央にいて皆を待っていた。
「母上! 起き上がってよろしいのですか?」
明るいところで見る彼女の姿は、誰もが言葉につまるほど酷い状態だった。髪は抜けて薄くなり、ひび割れた皮膚は今にもバラバラに崩れて落ちそうで、久しぶりに母と対面したモノリス以外の兄姉たちは、ショックを隠せない様子で青ざめていた。
身を起こしているのも辛そうな様子に、モノリスが横になったほうがいいのではと気遣ったが、メディオラは首を横に振る。
「見ての通り、私にはもうあまり時間は残されていないようなの。だからあなたたちにこうして集まってもらったのよ。さあ、席について頂戴。私の子どもたちに伝えなくてはならないことがたくさんあるの。お茶を飲みながら、話し合いましょう」
すでにメディオラ専属の執事がお茶の準備を始めている。モノリスがメディオラの右隣の席に着いたので、他の兄姉も順番に椅子に座った。
椅子の数からして、アメリアの分の席もあるようなのでメディオラから一番離れて空いている椅子に座る。
目の前に置かれた美しいティーカップに、執事がお茶を注いでくれた。
「皆でお茶を飲むのもこれが最後になるでしょうから、とっておきの良い茶葉を使ったのよ。さ、飲んで」
その一言で、メディオラがもう死期が近いことを悟って、最後に家族全員を集めたのだと理解して、皆しんみりとして目線を下に落とした。
だが、明るく振る舞うメディオラの気遣いを無にしないために誰もそのことは口にせず、できるだけ笑顔を浮かべ、美味しいお茶を楽しんだ。
アメリアも皆に倣ってカップを手に取り、口をつける。
メディオラがとっておきの良い茶葉だというだけあって、香りからして素晴らしい。
いくらするんだろうと思いながらカップを傾けるが、飲もうとすると、実家にいた頃に出されていたとんでもない味の飲み物や食べ物の記憶が蘇ってきて気分が悪くなる。
この場で吐くわけにもいかないので、とりあえず飲む振りをして何度かカップを傾けてからテーブルに戻した。
「皆に伝えたいのは、私の体はもう長くは持たないということよ。数年前からあちこちガタがきていたのだけれど、その頃は何が原因なのか分からなかったの。いろんな医師にも診てもらって、あらゆる薬を試したけれど、ダメだったわ」
死期が迫っているとメディオラ本人の口から語られ、皆が息を呑む音が聞こえてくる。やっぱり……と誰かの口から呟きが漏れ、悲痛な雰囲気に包まれる。
アメリアが絶縁を言い渡される少し前から、彼女は公務にも出なくなり皆の前に顔を出さなくなっていた。曰く、あの頃からすでに病気が進行し始めていたのだという。
「医者に病を見つけられないのなら、呪いの類かもしれないと言われてね。呪術師や退魔師を探して訪ねて行ったりしたのよ。藁にも縋る気持ちだったのだけれど、それが正解だったの」
呪い、という言葉に、兄姉たちは揃って気色ばむ。
「ということは、母上は誰かに呪いをかけられたのですか? なんてことだ、どうしてもっと早く話してくださらなかったのですか。呪い返しの方法がきっとあるはずです。我々総出で調べればきっと……」
「そうですわ! 呪法に詳しい者を私たちも探して参ります!」
「わたくしたちがお母さまをお救いいたしますわ!」
魔女界において最も力のある大魔女メディオラが、何者かによって呪殺されようとしているとしている。それが事実ならば、魔女界のみならず国家を揺るがす大事件である。
興奮して立ち上がりかけた子どもたちを、メディオラは右手を上げて制した。
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