第45話再び集落へ


 縋るように周囲を見回しても魔物たちの姿がどこにも見当たらない。

 もしかして魔法で攻撃を受けてもう消滅してしまったのかと青くなるが、使い魔としての契約が切れた感覚はないのでどこかで生きているはずだと、目だけ動かし必死に周囲を探る。


「アンタが連れていた奴等なら、邪魔だから気絶させておいたわよ。男を何人も侍らして、気持ち悪いったらないわ。まさか男を惑わす力がアンタの恩寵だったとか?」

「只人と犬だけじゃ護衛にもならないけどね」

「うっかり子どもなんて作らないでよ。契約違反だわ」


 姉たちから酷い言葉をぶつけられるが、アメリアはそれを聞くどころではなく、ようやく土埃がおさまって地面に累々と倒れる魔物たちが目に入り、どっと冷や汗が噴き出す。


 一番近くに倒れていたケット・シーに駆け寄ると、声をかける前に頭のなかに『喋らないで』と直接念話で話しかけられた。


『僕らが魔物だとバレてないみたいだから、このまま大人しく従ったほうがいい。魔女の集落に連行されるなら好都合。彼らもアメリアには危害を加えるつもりはないようだから、様子を見よう』


 使い魔契約をしてから、魔物たちとは離れていてもつながっているのを感じていたから、ここで引き離されてもお互い居場所を探れるはずだ。この六人を相手に戦うより、本家で様子を窺いながら契約書を探すほうが得策だとケット・シーは伝えてきた。


『大丈夫。予知は変化し続けているよ。僕らが必ずアメリアを守るから』


 気を失ったふりをするケット・シーから伝わってくる言葉に、アメリアは涙をこらえきれなくなって、彼を抱きしめながら声を上げて泣いた。


「気絶させただけで、殺してはいない。お前が母上の指示に従わず逃げたりするから、我々も強硬手段に出なくてはならなくなったんだ。その男たちが怪我をしたのも、全てお前の自業自得だ」


 泣きじゃくるアメリアを見たモノリスが、冷たく言い放ってくる。それをとりなすように次兄のジレが口を挟んできた。


「まあまあ、アメリアも実家に戻れと言われて怖気づいたんでしょう。ねえアメリア、君がきちんと母上の言うことに従うなら、僕たちもこれ以上彼らに攻撃するつもりはないよ」


 優しい口調だが、従わないなら彼らの身の安全は保証しないぞという脅迫だ。コクコクと頷くと、腕を出すように言われ、そのまま拘束魔法をかけられた。


「気絶している奴等もひとまず連行する。アメリアが母上のことなどをベラベラ喋っているかもしれないからな。取り調べして、場合によっては口外しない契約をする必要がある」


 拘束して連れていけ、とモノリスが三姉妹に指示を出す。女たちは兄から顎で使われることにいら立ってブツブツ言っていたが、当主に一番近い長兄には面と向かって抗議できないらしく、命令に従っていた。


 かくしてアメリアたちは全員拘束された状態でホウキにぶら下げられ、本家へと連行されて行く。魔物たちはまだ気絶しているように振る舞っている。


 ……本家に戻れば死ぬ、といったケット・シーの予知は、今も変わらないままなのだろうか。


 一体何が待ち受けているのか、全く想像がつかない。メディオラがわざわざアメリアを呼び出し、絶縁した娘をまた本家に戻そうとする理由も正直見当がつかない。

 なんの恩寵もない自分が必要になるとも思えないが、こうしてわざわざ兄姉を全員出動させているのだから、そこまでしてアメリアを本家に留めたい理由があるはずだ。

 その『理由』こそが、予知した死につながる事柄に違いない。


 逃げられないと分かった以上、ケット・シーのいうとおりここは素直に従って、本家で契約書を探すほうが死ぬ運命を変えられるかもしれない。

 幸い、連行というかたちで魔物たちも一緒に行ける。アメリアひとりでは無理でも、彼らがいればなんとかなるはずだ。


 数時間かけて魔物たちが走ってくれた距離が、兄姉たちのホウキで空を飛んでいけば、ものの一時間で魔女の集落に連れ戻されてしまった。

 集落に降り立つと、魔物たちは待機していた兄姉たちの部下に引き渡され、それぞれ別棟へ連れていかれた。犬の姿のままだったヘルハウンドは、縄でつながれる。

 ただの犬みたいな顔をしてしっぽを丸めているヘルハウンドに目配せをして、アメリアは本家の屋敷の中へ連れていかれた。

 アメリアが使い魔契約をしている犬だから、一緒に連れてきてくれたところを見ると、一応は配慮してくれているように感じる。


(兄さんたちが私を殺すつもりなら、使い魔なんて連れてきてくれないよね……? じゃあ、兄さんたちが私を殺す計画をしているわけではない……?)


 兄姉たちは怒り心頭だが、それはアメリアが勝手に逃亡したことと、わざわざ捕獲に駆り出されたことに対する怒りで、殺意までは感じられない。少なくとも、ケット・シーが本家に行くことを勧めたのだから、今すぐ殺されたりはしないだろう。


「ねえ、モノリス兄さん。母上はコイツを連れてこいって言っただけ? この後どうするんだよ。僕ら行かなきゃダメなの?」


 末兄のヘレックが不満げに声を上げる。メディオラの命令だから従ったが、元々アメリアを本家に連れてくる意味も聞かされていないし、家から除名した出来損ないに自分たちがここまで労力をかけたことが非常に不満だと言う。


「母上からこのあとお言葉があるから、それまで我慢しろ。最近お会いしていないお前たちは知らないだろうが、母上のご容体はあまりよろしくないのだ。もしかすると……死期を悟られて、相続についてお話されるのかもしれない」


 モノリスを除く兄姉たちが息を呑む。メディオラの後継に誰が指名されるのか、一代で築いた莫大な資産はどのように振り分けられるのか。皆、自分の配分を気にして口数がすくなくなる。


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