第34話死者の香り
「変な話ね。縁を切ったのに連絡に応じろなんて意味が分からないわ」
「それは多分……実家はまだ、私に恩寵が発現するかもしれないって疑っているからじゃないかな……」
恩寵が発現したらいけないの? と首をひねる魔物たちに、アメリアは実家の事情とそれから考えられる予想を述べる。
「もし私に恩寵が発現したら、真っ先に自分が確保しておきたいってことだと思う。覇権争いをしている兄姉たちとは、力が拮抗しているから、母様の後継ぎになるために少しでも有利な駒を持っておきたいってことじゃないかな」
兄がわざわざ自分で手紙を届けに来たのは、様子を見に来た意味もあるのだろう。
今更発現するなどあり得ないのだが、わずかな可能性も拾っておきたいくらい、兄姉間での争いは激化しているのかもしれない。
「……じゃあ、アメリアは実家に帰るかもしれないってこと?」
「えっ?」
家の事情を説明したところでピクシーがふとそんなことを訊ねてきた。
「実家の事情が変わりつつあるなら、除名したアメリアのこともやっぱり家に戻そうとって話が出たから、今回呼ばれたとかも考えられるね」
ケット・シーがそのように予想を言ったことで、一気にアメリアの顔色が悪くなる。
あり得ない話ではない。除名が取り消しされることは無いとしても、使用人として家に置いておくほうが良いという意見が出てきたという可能性もある。
「いや、いやいやいや、無理。せっかく家を出られたのに今更あんな生活に戻りたくないし。あっ、考えたら気持ち悪くなってきた……」
どうしよう、とアメリアは頭をかかえる。
実家に行ったらそのまま帰してもらえないとかあるのだろうかなどと悪い想像ばかりが膨らんでいく。兄姉たちがそうすると決めたら、何の力もないアメリアには逆らいようがないから、訪問が恐ろしくなってきた。
だが、行けませんなんて言ったら兄は絶対アメリアを許さないだろう。報復を受けることを考えると、すっぽかすなんてことできるわけがない。
ぶるぶると震え出したアメリアを見て、皆が厳しい表情で考え込んでいたところ、沈黙を破ったのはヘルハウンドだった。
「アメリアさん、これは提案なんですが、俺たちと使い魔の契約をしませんか?」
突然の提案にきょとんと目をまんまるにするアメリアに、ヘルハウンドが言葉を続ける。
「我々が使い魔になれば、アメリアさんに何かあった時助けに行けるし、我々の力を使うこともできる。身を護る術があれば、実家で何かあっても逃げられる」
「使い魔……?」
魔物と契約して使い魔にしている魔女はいないこともない。力で調伏するか、もしくはお互いの同意の元契約をすることで魔物を使い魔にすることができるが、どちらの方法でもお互い何かを対価にしなくてはならない。
魔物にとってはメリットになる条件を提示してもらえることなどまずないので、大抵調伏して無理やりの契約になるが、その場合は、契約者も支配し続けるために命を削ることになるので、強い使い魔を持つ者は諸刃の剣と言われている。
ただ、魔物が望んで使い魔になった場合のメリットデメリットがどうなるのか、教科書にも載っていなかったのでアメリアには分からない。
だからその提案にすぐ頷くことができなかった。ヘルハウンドはアメリアが難色を示すことを分かっていたようで、まずは僕の話を聞いてほしいと言って、この提案をした理由を語り始めた。
「昨日来た男……死臭がするんですよ。ネクロマンサーなのかと思ったんですが、でもあれは魔女だと言うし、どうにも気になって。死臭がする男の家に、無防備な状態のアメリアさんを一人で行かせるのが不安なのです」
死臭とは腐敗臭ではなく、死期が近い者や死者と関わりがある者はその匂いがするらしい。要は黄泉の国と繋がりを持って、そちら側の影響を受けている者だという意味だ。
魔女が黄泉との関りを持っているとなると、魔女界の掟を破って禁術に手を出している可能性が出てくる。
地獄の番犬であるヘルハウンドが、あの男は間違いなく黄泉に触れていると言い出したので、その場にいる者全員に緊張が走った。
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