第32話魔物たちの葛藤
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暗い部屋の中に闇がうごめく。
魔物たちは灯りを必要としないため、アメリアが眠りについたあとはランプもろうそくも消してしまう、ゆえに部屋の中は真っ暗闇である。
うごめく闇はベッドに眠るアメリアを取り囲み、満足そうな笑みを浮かべていた。
「アメリアがキレ始めた時はどうしようかと思ったぜ。マジで追い出されるかと冷や冷やしたわ。ピクシーの話術のおかげで命拾いしたな」
「ピクシーが上手く丸め込んでくれたから助かったよ~アメリアに本気で拒絶されたらさすがに居続けられないしね」
サラマンダーとケット・シーがピクシーを振り返る。一人だけ笑わずにじっとアメリアの寝顔を見つめていた彼は、彼らの言葉を受けてようやく顔をあげた。その表情は決して機嫌がいいとは言えないものだった。
「人聞きが悪いわね。アメリアの味覚がおかしいことも不健康なことも事実だし、健康になってほしいって思っているのも本当よ。……あんたたちだって別に嘘を言ったわけじゃないでしょ?」
どうにも機嫌が悪そうなピクシーに、他の魔物たちは少し困ったように口籠る。問われた言葉にどう返答したらよいか考えあぐねている様子だった。
「んーまあ、そりゃアメリアには健康でいてほしいさ。でもそれってさ、俺らにとっては魔力をくれる相手が死んだら困るっていう下心があるから、騙している感があるよな」
「そうそう。アメリアは僕らが本当に恩返しのために尽くしているって信じちゃったけど、僕らも魔力もらってるから、あんなに信用されちゃうと罪悪感覚えちゃうよね」
「もちろん恩を感じていますけど、それよりも魔力もらえるメリットのほうが正直大きいですし……純粋な恩返しではないという後ろめたさはありますね」
ため息が聞こえてきそうな雰囲気で、魔物たちはそれぞれ複雑な表情を浮かべる。
魔物としてこの世に顕現して、人の理に当てはまらずに存在してきた彼らは、人間のような感情は本来持ち合わせていない。
アメリアのことも、恩返しなどただの方便だ。魔物たちは彼女の美味そうな魔力に引き寄せられて近づいたに過ぎない。
魔物にとって人間とは、惑わし、利用し、弄んで楽しむためのもの。人のように誠実で正しくあらねばなどとは思いもしない。
彼らもそのようにして生きてきた。それに疑念を抱いたりしたことなど、ついぞなかった。そうであったはずなのだが…………。
「ねえ、いっそ魔力をもらっていることを話しちゃえばいんじゃない? 憑り殺そうとしてるわけじゃないし、おこぼれをもらってるだけなんだから、別に悪いことしてないでしょ」
変に後ろめたく思うくらいなら、言ってしまえばいいとケット・シーは主張する。
確かにその通りだ。おこぼれを貰うだけで何も悪いことはしていない、内緒にする理由はないはずだ。
けれど、どうしてもピクシーを始め他の魔物はその意見を揃って退ける。
「……せっかくアメリアが心を開いてくれたのに、魔力をもらっていることを話したら、騙されたような気持ちになって傷つくんじゃないかしら」
「まあ……純粋な好意じゃなかったと知ったら、また俺らと距離を取ろうとするだろうな」
「そもそも他者との関りを徹底的に排除してきたようなお人ですから、騙されたと思ったら家も捨てていなくなってしまいそうですよね」
純粋な好意だと信じているアメリアがどんな風に思うかと考えると、魔力の件を告げるのは怖いと皆が言うとケット・シーも反論できないようでぐっと押し黙った。
「いつかは魔力の話もアメリアに言う必要があるけど、それは『今』じゃないんじゃない?」
問題の先送りではないが、ようやく自分たちを受け入れ始めてくれたばかりなのだから、今また疑心暗鬼にさせることもないだろうとピクシーは言う。
それに他の魔物たちも頷いて、アメリアの魔力を食べている事実はもうしばらく伏せることで同意した。
魔物たちは自分たちがどうしてこんなに悩んでいるのか、自分自身でも疑問に感じながら話し合いを終えた。
人間にどのように思われても気にしたことなど今までなかったのに、どうしてアメリアに対しては言いよどんで問題を先送りしてしまうのだろうか。
疑問に思いながらも、彼らは皆考えを深掘りするのを放棄した。
今まで一つの物事を深掘りして考える習慣が魔物には無かったせいで、自分たちのなかに、まるで人間のような『感情』が芽生えているということに、彼らはまだ気づいていなかった。
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