第19話食事がそもそも好きじゃない



「おいコラこの猫野郎! アメリア起こすのにどんだけかかってんだよ! 朝飯が冷めちゃうだろうが!」


 バンっと乱暴にドアを開けてエプロン姿のサラマンダーが飛び込んできた。そしてケット・シーを右手に、アメリアを左腕に抱えてダイニングへ強制連行した。


 ダイニングテーブルにはすでにピクシーとヘルハウンドが席に着いていて、ピクシーは特に不満顔で、ケット・シーのおでこをペシッと叩いた。


「遅いわよ。なんか余計なことしてたんでしょう。抜け駆けはナシよ」

「ひどーい。いたぁーい。アメリアがなかなか起きなかったんだよお」


 そうなの? とピクシーから目線を送られたのでこくりと頷くと、濃い目に入れた温かいミルクティーを出してくれた。

 朝食は色とりどりのフルーツとカッテージチーズ、そして蜂蜜がたっぷりかけられた分厚いパンケーキが二枚どーん!とお皿に乗っていた。


 ちなみにアメリアは、甘いものが苦手である。


 居候が住み着く前は、大量に作った塩粥を毎日ちびちび食べていた。

 朝ごはん担当のサラマンダーに『朝ごはん何がいい?』と訊かれ、塩粥と答えたが、出てきたのは砂糖をたっぷりまぶしたドーナツだった。なんでだ。


 見ただけで胸やけしそうなパンケーキを前に、アメリアは文句も言わずもそもそと食べ始めた。

 出された食事に文句を述べるのは恥ずかしいことだと言われ続けてきたのだから、食べたいものが出てこないのが当然だと思っていた。


 実家にいた頃のアメリアの食事は、『これを食べると頭がよくなる』とか『身体能力向上する』などの目的ありきのメニューばかりで、食事も修行の一環だったので、はっきり言ってまずかった。


(苦くてえぐくて異様にすっぱいスープが毎日出ていたなあ……)


 一度、こっそり残そうとしたのを見つかった時、好き嫌いをしているから才能が開花しないんだと言われ、次の日からスープがもっと酷い味になったので、それからは何を出されても黙って食べるようにしていた。


「ねえアメリアおいしい? 蜂蜜も果物も僕がとってきたんだよぉ」

「オイシイ。アリガトウ」


 機械的にお礼を返すと、ケット・シーは嬉しそうに耳をパタパタしていた。甘いものは苦手だとはとても言えない。

 分厚いパンケーキをなんとか胃に詰め込んで、食後の紅茶を飲んでいると、こちらの様子をじっと観察しているケット・シーと目が合った。


「アメリア、なんか今日顔色悪いね。昨日よく眠れなかったの?」

「あー……ちょっと、夢見が悪くて」


 昔の夢を見てしまったせいで、寝たはずなのに全然疲れが取れていないどころか頭も背中も痛くて、朝から気分は最悪だった。


「あら? 本当だわ、具合悪そうね。だからなかなか起きれなかったのね。気付かなくってごめんなさい。今日は寝てなさいよ。どうせ雨なんだし」

「あ……うん、そうだね。ありがと……」


 ほかの魔物たちも気づかわし気にこちらを見てくる。本当に心配されているようで、なんだかくすぐったい気持ちになる。

 ケット・シーが予知によると今日は雨になるから畑に水やりもしなくてよい。急ぎの仕事もないから、しばらく寝てなさいと勧めてくるピクシーの言葉に素直に従う。

 甘ったるい朝食で気分が悪くなっていたのもあり、アメリアは言われたとおり食後はまたベッドに戻った。


 少し横になるだけと思っていたのに、気が付けばぐっすり寝てしまっていた。

 薄いブランケットをかけただけで寝入ってしまったから、肌寒さを感じて身震いと共に目を覚ました。


 ぼんやりする頭を起こして、窓の外に目を遣ると、すでに外は雨が止んで、雲の隙間から日差しが窓から差し込んでいた。

 太陽の位置からして、昼をとっくの昔に過ぎているくらいに見える。

 うっかり昼寝しすぎてしまったと思い、だるい体を引きずるようにベッドから降りて部屋から出ると、リビングにはサラマンダーの姿しかなく、ほかの魔物は出かけているようだった。

 ちなみにサラマンダーもソファでぐうぐう寝こけていた。


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