第49話 新幹線ホーム突入
岩手より北の高速道路は道が悪かった。魔物が多いからなのかもしれないけど、道路がボコボコと穴だらけだったのだ。
冬華が酔いそうになってしかたなかった。穴をよけるために左右へ揺れる車体をなんとかゆっくりと運転してくれた千紗。
道中もマラスが度々現れ、足止めを食らうことが多かった。
だが、これまでの俺達とは違う。マラスは俺か雷斗が魔法で撃ち落として素通りだ。魔石を拾うのさえ面倒だ。
さっきのラット達の魔石をこの車に投入したのでもう十分な燃料になっていた。
そのため、道は順調に進んでおり、もうすぐ八戸に着くほどまで来ていた。ここからが少々乱暴なプランになる。
「どこから新幹線の道に入るんですか⁉」
その時、千紗からもっともな質問がされた。これの答えがかなり強引だったのだ。ただ、許可は取ってある。
「駅からだ」
「はぁ⁉ どうやって新幹線ホームまで行くんですか⁉」
焦ったようにこちらを睨んでくる。
「階段上ればいいんじゃないか?」
「はぁ⁉ この車でですか ⁉」
「あぁ。千紗の腕の見せ所だな? 頼むぞー」
背中を座席に着けて深く座り、衝撃がいつ来てもいいように構える。そんなこんなを話しているうちに八戸駅へ着いた。
「本当にいいんですね?」
「頼む。許可はとってあるからな。大丈夫だ。うん。みんな、しっかりと掴まれー」
一応忠告はした。ただ、めちゃくちゃ揺れると思う。
「ちょっとやってみたかったんですよねぇ! うりゃぁぁ!」
ロータリーを逸れて歩道に乗り上げる。そのまま走っていき、正面にあった階段を駆け上がっていく。
「イケイケー! ヒャッフー!」
「なんかノリノリじゃねぇか?」
上がった先にはガラスの自動ドアが待ち構えていたが、コイツには関係なかったようだ。
────ガッシャァァァンンッッ
なんとガラスの扉をぶち破ったのだ。
「ちょっと! 千紗さん⁉ やりすぎっすよ⁉」
「許可取ってんだからいいでしょうよ ⁉ おらおらー!」
改札をぶち壊しながら装甲車で乗り上げて行く。そして大きな階段を駆け上がる。車体は小刻みに揺れてケツが痛い。
「もうちょいだ! いけー! 13番線にジスパーダの車両が参りまーす!」
上がりきったと思ったらドリフトして新幹線ホームにスポッと落ちた。すごい腕前だな。さすが千紗だ。ちょっと惚れそうだわ。
「ワタクシ酔いましたわ……」
「冬華⁉ 大丈夫か⁉」
「大丈夫じゃないですわロロロロロロ……」
その辺に落ちていた袋に出したからよかったが、冬華はご愁傷様な状態になってしまった。後ろで布団を敷いて寝ている。
吐いたブツは外に置いて跡形もなく消し炭にした。こういうとき高火力な魔法って便利。
「千紗、スピード出しすぎたんじゃないのか?」
「……すみません。ちょっとテンションが上がってしまって」
先ほどとは打って変わってちょっと体を小さくしている。
「まぁ。気持ちはわかるけどな。じゃ、ゆっくり頼むぞ」
「はぁーい!」
新幹線ホームから装甲車が走っていく様は現実では見ることができないであろう。こういう普段してはいけないことをするというのは少しテンションがあがったりするもんだよな。
そこからはゆっくり走っていくことになった。だが、ここで問題が起きた。マラスのような空の魔物が来た場合避けられないので戦うしかないということ。
「出やがったなぁ。ブーデア!」
今までのカラスのようなマラスと違い、ブーデアは一回り大きく恰幅のいいプテラノドンといった感じ。
やつの特長は、炎に耐性があるということ。要は、俺では時間がかかるということだ。こういう時は、仲間を頼ろう。うん。
「あいつは俺では無理だ。雷斗頼む」
「わかったっす! 任せるっす! ライジングボステックス!」
窓から出したライトの手から雷撃が伸びていく。意思を持っている様にグネグネと曲がりながらブーデアへ向けて飛来する。
────バチバチバチッッ
命中した。ブーデアの他の特長として、パワーはあるが、スピードはさほどでもない。なので、近づいてくる前に始末すればいいのだ。
「ナイスだ! 良いぞ!」
「余裕っすよ!」
そんな余裕な雷斗だったが、しばらく走っていると二体飛んできた。流石に二体は捌けなかったようで。
「刃さん一体通しちゃうっす!」
「わかった。まぁ。やれないわけではないんだよな。ただ、飛炎!」
いつもの三倍の火の粉の量を出す。そしてブーデアに纏わりつかせて徐々に焼いて行く。これでは、埒が明かないから、もう少し芸を見せる。
「爆ぜろ!」
────ドドドドドドドンンンッッ
大規模な爆発が起きて周囲に凄い轟音が響き渡る。戦闘不能にはなるが、それでいて原型を留めているから驚いてしまった。
あいつの皮なんかを家の外壁などに使った方が耐火性は増すんじゃないかと思っている。何かに使えるかなと思ったが、あんなにボロボロなのはいらないか。
雷斗の方は雷が貫いて焦げが付いていて同じようにボロボロになっている。
「ブーデアでしたっけ? アイツそんなに炎に強いんですね?」
「あぁ。あのくらいやらないとくたばらないんだよ。参るよなぁ。だから俺アイツ苦手だったんだよ。魔力なくなるじゃん?」
「ですよね。今は魔力を吸収できるからいいですけど」
「まぁ、そうだな。吸収できないと辛いんだよ」
これからも出てくるであろうブーデアを思うと嫌気がさしてくるが、行かないわけにもいかない。新幹線程のスピードはでていないので、ここから北海道まではかなり時間がかかるだろう。
途中は海底トンネルを通るため、一応酸素ボンベを用意してある。車で通った人なんていないだろうからな。どんな弊害があるかわからない。
段々と遠くにあったトンネルが迫って来ていた。
「あと数分もあれば海底トンネルよぉ?」
「一応酸素準備しておけー!」
「了解っす!」
「わかりましたわ!」
後ろの二人は大丈夫。俺も千紗の分と二人分用意している。
さあ。いよいよ長い長いトンネルだ。初じゃないかな? 車で海底トンネル通ったの。
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